連載「クラッシュカレーの旅」#17

太陽と石臼の結婚、そして誕生/東京・大田区・石臼・叩き旅


Jinsuke MizunoJinsuke Mizuno  / Jan 19, 2026

アメ横に帽子を買いに行った。普段はキャップをかぶっているのだが、ふいにハットが欲しくなった。専門店を物色し、気になるハットを手当たり次第に頭にのせていると、間もなく店員さんが近寄ってきた。反射的に身構える。僕は接客されるのが苦手なのだ。

こっちに来ないで、放っておいて。祈る気持ちとは裏腹に彼は軽やかな調子で話しかけてくる。新しいハットをかぶるたびに「いいですね」、「似合いますね」、「いやー、似合ってますよ」と繰り返す。僕はその場から逃げたくなった。そりゃ彼だって仕事なんだから当然のことをしているだけである。

でも、似合っていないことは僕がいちばんわかっているのだ。

似合うというのは、くっついたら離れようがないくらいに結び付くことである。似合うというのは、互いにどちら側から眺めてもフィットしていることである。似合うというのは、他の対象を想像できないほど様になっていることである。

たとえば、太陽と石臼のように。

自然光が豊かに降り注ぐ一軒家でクラッシュカレーを作った。デモンストレーション型でかつワークショップ的な意味合いも兼ねたイベントだったから、赤の香り玉をみんなで叩くことにした。

蒸留酒で辛味を抜いた唐辛子を塩と一緒に石臼に入れ、叩き始める。レモングラスやカー、にんにくなどを叩いていくのだが、唐辛子の赤色がいつになく赤いまま残っている。特別な唐辛子を使った覚えはない。不思議だ。

石臼を何人もで取り囲み、ぐるぐると回りながら叩き手を変えていく。石臼を叩くときはいつだって盛り上がる。ほとんどの人が初体験だし、その場で強烈な香りが生み出されるからだ。とはいえ、心なしかいつもより楽しい空気が漂っている。謎だ。

完成したペーストをゴムベラで丸めてみると、真夏の太陽のよう。まるまるとしてつややかで神々しい光を放ちそう。香り玉にこれほど生命力を感じることはかつてなかったかもしれない。そこで合点がいった。ああ、太陽光の力なのかもしれない!

太陽と石臼はよく似合う。太陽と石臼が結婚し、クラッシュカレーが生まれるのだ。

鍋にココナッツミルクを入れてグツグツと煮立て、油分を分離させて香り玉を加える。じっくりと炒めているときも赤は赤を失わない。むしろ赤みを深めていくようだ。鶏肉を加えてチキンカレーを完成させる。ソースの表面には赤色を吸い込んだ油脂分がぽわぽわと浮かび、美しい顔つきをしている。

器にご飯を盛り、仲間が作ったエッグカレーとあいがけすると、まるで月と太陽のようだ。僕は器を両手に持ってゆっくり窓際に行き、たっぷり入り込む自然光の中で撮影した。辛味と風味がコロナのように燃え上がるクラッシュカレーを食べながら、強い太陽光を背中に浴びる喜びをかみしめた。

今日もいい日だった。食事を終えて石臼を洗う。石臼を洗うのは重くて大変だが、あっという間に乾くのがいい。石臼を抱えて表に出ると、あつらえむきの人工芝。これなら瞬時に乾きそうだな、芝の上に石臼を置いた。その様の美しいこと。石臼に降り注ぐ太陽。僕はたまらなくなって何枚も写真を撮った。似合うとはこのことだ。

さて、一方で僕の頭とハットの方はどうだろう。帽子屋で店員の声掛けにめげず、キョロキョロと店内を見回していると、ボーラーハットに目が行った。丸いトップと巻き上がった短いツバが特徴の帽子。チャップリンがかぶっているようなやつだ。

頭にのせてみる。お、これは! 意外といいじゃないか、と僕の脳が反応する前に店員からの声が飛んできた。「いやー、いちばんいいですね!」。僕は買うことにした。果たして本当に似合っているのだろうか。これから僕がボーラーハットと何を生み出せるのかは定かでない。

 

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