
見学ツアーが常時開催
真の“静岡産ウイスキー”を目指す ガイアフロー静岡蒸溜所
「うまい酒は旅をしない」
「酒は生産された土地で飲むのが美味しい」を意味する本来の意味に加え、酒づくりに使用する素材や機器までも地元産にこだわることで真の“静岡産ウイスキー”づくりに挑戦を続けている蒸溜所が存在する。
静岡駅で下車し、バスに揺られること約1時間。山道を経由しながらたどり着くのはガイアフロー静岡蒸溜所。2016年より山々に囲まれた静岡の奥座敷、通称「オクシズ」に設立されて以来、風土に根ざしたウイスキーづくりへの挑戦を続ける。
豊かな自然に囲まれた蒸溜所内でウイスキーづくりの見学が可能ということで、今回RiCE.press編集部も見学ツアーに参加。バスを降りると同時に聞こえてきたのは、セミの鳴き声に川のせせらぎ。
中河内川沿いに位置する蒸溜所施設。
背には山、正面には池が鎮座し、大自然の中でウイスキーづくりが実践されている。
施設内へ入ると静岡蒸溜所におけるウイスキーづくりの説明動画の鑑賞からスタート(*夏季のメンテナンス期間のみ)。ウイスキーに関する基礎知識からこだわりまでが簡潔にまとめられており、ウイスキー初心者でも楽しめる見学内容となっている。
8月初旬。平日にも関わらず数多くのお客さんの姿。
説明動画の鑑賞を終えると、ガイドの方の案内に従って蒸溜所内の見学へ。
ツアー前半に案内されたのはウイスキーづくり序盤の工程で使用する発酵槽。地元の静岡産麦芽や国内外複数の麦芽を使用して仕込まれた麦汁をアルコール化させるために用いる。機械ではなく人の手で洗浄したり、使用する2、3日前から水を溜めて木を膨張させるなど、木桶を使用する上で多くの手間暇と工夫がなされている。
全10基ある発酵槽のうち半数以上の6基が地元の静岡産杉製。
「風土に根ざしたウイスキーづくり」が発酵の段階から実践される。
日本の杉で作られた発酵槽は世界唯一という。
ガイドの方が「オクシズ」の豊かな自然に囲まれた静岡蒸溜所独自のこだわりを説明してくれる。
ウイスキーを糖化させる糖化槽では、敷地内の井戸をから汲み上げた地下水が用いられる。
ここでも「オクシズ」の自然の恵みが生かされているのだ。実際に中を覗くことも可能。
続いて蒸溜器の見学へ。静岡蒸溜所では、3器のポットスティルが稼働。
スチーム加熱による蒸溜が主流の昨今、直火加熱による蒸溜が採用されている蒸溜所は日本全国で5つほど。本場のスコットランドでも約130の蒸溜所のうち4つの蒸溜所のみ。その中でも薪による蒸溜でウイスキーづくりに挑戦するのは世界を見渡しても、ここガイアフロー静岡蒸溜所だけだ。
この薪を使用した蒸溜は、薪を使用していたパン屋や備長炭を使用する鰻屋からインスピレーションを受けて採用。
地元で伐採された丸太を仕入れて使用する。
蒸溜器の見学を終えると、樽の貯蔵庫へ。
熟成庫は、全国でも珍しい天井から日光が射す構造。温度変化を厭わないのは熟成を早めるため。蒸溜所ができてから10年間もないこともあり、早期熟成によって市場に出回る商品の数を増加させる狙い。とはいえ、多くの樽が並ぶ倉庫内。今後は、長期熟成した商品の展開も期待される。
ツアーが終了し、最後は各商品の試飲が可能。実際に製造現場やつくりへのこだわりを聞いた直後に味わう、なんとも贅沢な体験だ。
ガイアフロー静岡蒸溜所のシグネチャー商品「ユナイテッドS」(写真中央)。
日本産大麦と外国産大麦がブレンドされ、飲みやすくもコク深い、バランスの取れた味わいが印象的。
100%日本産大麦使用の「ポットスティルW 純日本大麦」(写真左)と100%外国産大麦使用の「ポットスティルW 純外国産大麦」(写真右)との飲み比べが楽しい(ともに薪直火加熱)。
樽熟成させる倉庫の場所違いによる味わいの差異を楽しむシリーズも。
麦の原産違い、蒸溜器違い、場所違いと条件を細やかに変えながら酒質を実験的に変化させる取り組みからは、大のウイスキーマニアという中村社長自身が楽しみながら商品開発に臨んでいることが垣間見える。
上記以外にも多数の商品がラインナップ。「静岡」がふんだんに詰め込まれた商品は旅行のお土産にも相性抜群だろう。ぜひ静岡へ訪れた際には都会の喧騒から離れた「オクシズ」まで足を運び、大自然の中で実践される全国でも稀有で実験的なウイスキーづくりの様子を見学いただきたい。
ガイアフロー静岡蒸溜所
静岡県静岡市葵区落合555番地
IG @shizuoka_distillery
見学開催時間
平日 11:00〜13:00、13:45〜15:45
土日祝 9:30〜11:30、12:20〜14:20、15:00〜17:00
*各回20名まで
*土曜・日曜および夏季(8月上旬〜9月下旬)はウイスキーの製造を休止。
作業中の様子はご覧いただけないかわりにウイスキーづくりのイロハが分かる説明動画が視聴できます。
*薪直火蒸溜は、製造期間中の平日に実施。
料金 1,100円Photo by Shun Akagi (写真 赤木瞬) IG @_shunsuke_akagi
Text by Shogo Sugano (文 菅野匠悟)