“食”をテーマに世界を読む

食の本だけを集めた、豪徳寺の小さな本屋[皿書店]


小田急線沿線、世田谷区の豪徳寺駅から赤ちょうちんとモダンなお店が立ち並ぶ通りを抜けた先に「食」にまつわる本やZINEだけをあつめた、ちょっと変わった本屋さんが待っている。

昔からあった本屋さんがつぎつぎと店をたたみ、紙の本が売れないと言われる時代に突入して何年だろうか。
そんな流れをものともせず、ユニークなコンセプトとともに[皿書店]は2025年の4月にオープンした。



店先には、SAPPOROの冷蔵ケースを本棚として活用。
中には本がぎっしりと並び、[皿書店]を象徴するディスプレイとなっている。

店主の関 秀一郎さんは、28歳。[皿書店]を開く背景には、コロナ禍の存在も大きい。
大学卒業後オーストラリアへの留学が決まっていたが、コロナの影響で流れ、一般企業に就職。時間がうまれたこともあり、ゆっくり本を読む時間が確保できるようになった。するともともとのカルチャー好きも相まってどんどん本にはまっていったという。

「本当はコロナの時に、サブスクにないようなマニアックな作品を集めたレンタルビデオショップをやりたかった」と語る関さん。
このころから、今につながる“ニッチ”を見つけるセンスと、届け方を考える感性がすでに光っていた。
「物に囲まれているという空間が好き」ということもあり、オンラインではなく、はじめからお店を持つことに決めた。


入って正面のテーブルに置かれた本は、時期によって変わる。取材時はアメリカ特集が組まれていた。

店内はゆったりとした空間で、自然と手が伸びるレイアウト。本はみな表紙が見えるように並べられ、天井近くまで棚が続く。それでも不思議と圧迫感はない。

そして一目では気づかないが、本の配置には、店独自のこだわりが。
「真ん中奥のデスクを多彩な食文化の源であるメソポタミア文明に見立て、そこから(デスク側から入口を見て)左が中東〜ヨーロッパ〜アメリカへ、右がインド〜中国〜韓国〜日本などのアジアへとつながるようにしている」

そしてそのすべてが「食」にまつわる。

レシピ本はもちろん絵本から人類学に至るまで幅広く食にまつわる本を扱っている

豪徳寺にお店を構えようと決めたというより、物件とのめぐりあわせで、もともとブティックだったこの場所に落ち着いたという。

奥には試着室の跡が残り、壁掛けのハンガーラックもそのまま本棚へと姿を変えている。

まったくの未経験から本屋を始めたこともあり、「コンセプトがあった方が面白い」と考えた関さん。当時フードエッセイをたくさん持っていたことや、どんなテーマであれば本を揃えていけるかを考え抜いた末、たどり着いたのが「食」だった。

店名の由来は「食」からの連想で、salad(サラダ)書店→皿多書店→皿書店へ。インスタのハンドル@salad_bookstoreのsaladはその時の名残かと聞くと、海外の人の”salad”の発音って”d”が落ちるから、実質「サラ」書店なんだと。すべてのピースが気持ちよくはまっていく。

本のセレクトの基準は、内容はもちろんだが「表紙のおもしろさ」も大きいという。お客さんが思わず手にとってしまうような工夫がちりばめられている。古本は、せどりのような形で自分で仕入れに行くため、こつこつ集めていったと語る。開店当初はあまり棚が埋まらなかったが、買取の持ち込みも増えてきた現在は、蔵書は倍ほどになったそうだ。

「食を切り口に本に興味を持ってもらいたい」

お客さんの8割ほどは、ふらっと入ってくる。そんなお客さんとのお話しも、最初はやはり食についてになるが、結局本に行きついていくという。
ジャケ買い上等、買ってしまったらもう、読みたくなるのが人間の性。その後ろで関さんはしたり顔をしているに違いない。



本に囲まれた店の奥で、黙々と作業を続ける店主・関さん。“食と本”が交わる皿書店の日常の一場面。

そんな関さんの最近のおすすめは、「Midnight Salad Club」。同世代の京都のギャラリー[スペースぱせか]の小泉さんが作成したZINEで、「最初は手作りだから糊のにおいがした」という。

酔っ払って夜中に帰ると、小腹が空いてカップ麺やスイーツを食べてしまう。そんなジャンキーフードの代わりにサラダで小腹を埋めよう、という活動をミッドナイトサラダクラブ、通称MSCと名付けてその記録をまとめたZINE

ただ、当の関さん自身は、週5でラーメンを食べるほどのラーメン好き。東北にまでラーメン旅に出かけるほどで、店内の一角にはもちろんラーメンコーナーもある。好きなお店は、目黒にある[志那ソバ かづ屋]。

[皿書店]のこれからとして、ただ物を売るというよりは、お店のイベントスペース貸しや、出店を挙げた関さん。特に、フードイベントなど、今まで本屋さんがあまり足を踏み入れなかった場所へ行きたいと語る。

コンセプトにしても、これからの展開にしても、「その手があったか」とうならされる。
「食」を入口に本の世界へと誘う、案内人のような関さん。その次の一手にも、期待が高まる。

本と食、そして人。その関わりについて穏やかに語る関さん

ちなみに[皿書店]で初となる読書会 SALAD Book Clubが、来たる10月19日(日)の10:00~12:00に行われる予定。
課題図書は村田紗耶香さんの『コンビニ人間』。朝から少人数でゆるーくおしゃべりする感じの読書会らしい。先着順なので興味がある方はぜひ皿書店のinstagramをチェック。

皿書店
住所:東京都世田谷区赤堤2-2-8 第13通南ビル102
営業時間:平日 14:00-19:00 土日祝 13:00-19:00 木曜休
IG  @salad_bookstore

Photo by wacci(写真 wacci) IG @wacci
Text by Terra Owen(文 Owen Terra)
Edit by Shingo Akuzawa(編集 阿久沢慎吾)

 

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