旅する八百屋
八百屋が旅をする理由
こんにちは! 青果ミコト屋の鈴木鉄平です。
ボクたちは日本全国の産地を旅してまわり、自分たちの目と舌と感覚で選んだ美味しい野菜を仕入れています。そして定期宅配や移動販売などを通じて、食卓までお届けしている店舗を持たない「旅する八百屋」です。
“ミコト屋号”という古いキャンピングカーには、シュラフやテント、自炊道具にハンモック、海パンやサッカーボールまで積んでいます。旅先で出会った農家さんに野菜を分けてもらい、湧き水を汲んで野営をします。車かテントに寝泊まりするため、滞在費はほとんどかかりません。そうやって旅をしながら畑を訪ね、おいしい野菜を求めてキャラバンしています。ボクらが「旅する八百屋」というのは、ここからきています。
この産地巡りの旅はボクらにとっていわばライフワークのようなものになっています。ぼくたちが旅するのは、おいしい野菜を探すためでもあるし、すばらしい生産者に出会うためでもあります。その土地の食の文化や背景を学ぶためでもあるし、生産現場に足を運ぶことで見えてくる流通の課題を探るのもミッションのひとつです。でもやっぱりぼくたちにとって旅とは、自分たちの活動におけるインスピレーションの源だと思っています。
同じ場所からは見えない景色も、自分が動くと違った景色が見えてくる。何か同じものを見るにも、そっちとあっちじゃ見え方が違う。それと同じで、旅することで、今まで自分たちになかった視点で捉えられたり、自分たちの日々の活動をちょっと俯瞰的に見ることができたり。川の水は流れ続けるから濁らないと言いますが、同じようにぼくらもじっとしていると思考が停滞してきます。だけど旅をしてフレッシュなものに触れることで、思考が循環し、新しいアイデアやインスピレーションが生まれてくることを実感しています。そういった意味では、旅を重ねることが、ぼくたちの原動力になっているのは確かです。
たくさんの農家さんをめぐるたびに思うことは、農家さんの数だけ育て方があるということ。細かい管理や技術、信念などは十人十色。品種の選定から、種の蒔き方から、土寄せの仕方、支柱の建て方、農具のセレクトまで、どれひとつとして全く同じことはありません。もちろん気候や風土など土地柄の違いもありますが、農家さんそれぞれに独自の自然観やこだわりがあります。それはまるで子育てのようにまったく同じものはなく、絶対的に正しいという答えも存在しません。確かなことは、みな野菜を育てるのに一生懸命で、あふれんばかりの愛情を注いでいるということです。野菜も生き物ですから、きっとそんな農家さんの想いを汲み取って成長しているのだと思っています。ぼくたちが野菜や果物を選ぶ時、一番大切にしたいのは、そういった農家さんの野菜に対する想いの部分です。野菜も畑も人柄も全部知って、その上で確かなものを選びたい。そう思うからこそ、ぼくたちは必ず産地を訪ねています。
初めて会う農家さんであれ、いつもお世話になっている農家さんであれ、まずは畑を案内してもらい、作業を手伝ったり、一緒に食卓を囲み、あわよくば一晩泊めてもらったりもしています。そうやって色んな時間を共有させてもらうことで、農家さんの人柄や想いがぐっと伝わってくる。ぼくたちはそれを知ることで自信を持って販売できる。農家さんには、どんな男たちがどんな想いで販売してるか。等身大のぼくらを感じてもらうことで安心して託してもらいたいのです。畑と食卓までをあずかる八百屋という仕事において、そんな温度感のある信頼関係が一番大切だと思っています。もちろんお互いの状況や考え方、想いは変化するもの。だからぼくらはまた畑を訪ね、お互いの近況をアップデートしていかなければいけません。
やっぱりミコト屋は旅してナンボの八百屋なのです。
▲ Micotoya’s FarmTour at HOKKAIDO 2017 Trailer
写真: Masahiro “Lai” Arai
- MICOTOYA Director
鈴木 鉄平 / Teppei Suzuki
青果ミコト屋代表。1979年生まれ。3歳までをロシアで過ごし、帰国後横浜で育つ。高校卒業後アメリカ南西部を一年かけて放浪し、ネイティブアメリカンの精神性を体感。ヒマラヤで触れたグルン族のプリミティブな暮らしの豊かさに惹かれ、農のフィールドへ。千葉の自然栽培農家で仕事を学び、その後Brown’s Fieldのスタッフとして一年間自給的な暮らしを経験。2010年、高校の同級生、山城徹と共に旅する八百屋「青果ミコト屋」を立ち上げる。畑と食卓を繋ぐ仲人としての八百屋の在り方を日々探求中。著書に「旅する八百屋」(アノニマスタジオ)がある。
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