
連載「食の交換日記。」
London #01 レシピの違和感
久しぶりになってしまいました。いつの間にか季節もすっかり秋。
この夏はバーベキューをするたびに、パンを生地からこねてグリルで焼いて食べるのにハマっていました。少し頑張って練った小麦の塊に火を通すだけで、ふわりとふくらみ、香ばしいパンになる。ただそれだけのことなのに、毎回ちょっとした驚きがあって、飽きずに食べ続けていました。
ピタっぽいパンなら簡単に焼けるし肉にも合う
突然過ぎますが、テラコッタという素材を知っていますか?
テラコッタは「焼いた土」という意味を持つ言葉で、粘土をオーブンや窯で焼くことでつくられます。
土という材料を焼くことで、人が使うことができる何かの形にすることができます。
イタリアのシエナの街はテラコッタ色が美しい中世の街並み
太古の昔から、私たちは何か身の回りにあるものに手を加えて、それを1つの手法として蓄積してきました。それを時に私たちは「レシピ」と呼びます。そういった意味合いにおいて、「建築」と「食」はとても似ているところがある(ってよく言われるよね)。
素材に手を入れて、何かしらの機能を持たせたり、ごはんとして美味しくしたり、つまりはアプリシエーションできる形にもっていく。私たちの身の回りにある自然のもの(素材)を、また少し人間の側に近づける。
私たちの建物の歴史も、食の歴史も、このレシピを作り続けているということにほかなりません。
昔から受け継がれる色々なレシピがありながら、新しい科学の力や道具の登場によって、建築工法も調理法も更新され、素材から生まれた材料、レシピ、そしてご飯のスタンダードも変わってきました。
木材という素材でいえば、いまやCLT(直交集成板)のような工法が新しいスタンダードになりつつあります。CLTを使用しプロジェクト「Earthboat (@earthboat_)」建設中の様子 Photo by PAN- PROJECTS
しかし同時に、そのままでは規格に合わず使いにくいとされ、大きな丸太が山に残されている現実もあります。大きな丸太を、丸太そのままで利用する方法が探るプロジェクトも進行中です。
そこで疑問なのが、本当に技術の発展に合わせて形づくられた素材、進化した材料(Highly processed)だけが正しいのか。あるいは合鴨農法みたいな昔ながらのやり方が正しいのか。それともそういったもの全てのオプションの組み合わせが世の中を豊かにしていくのか(その間の違和感にあるレシピの揺れ動きみたいなものが今っぽいと感じる)。
それは食も自然の建築も変わらず、強いてはそれは自然と人間社会の、その関係性が今更新されてきているということなのかなと最近は感じています。私もこれからもっとたくさんのレシピのアップデート作業にトライしていきたい!
PAN- PROJECTSでインターンをしてくれていたRalphと一緒にオーストリアで行ったリサーチプロジェクト「A collection of bioclimatic responses」では伝統的な建築のレシピをどう現代の気候に合わせ、それを様々な地域に共有する可能性があるかを探った。
- Architect
八木 祐理子 / Yuriko Yagi
兵庫県神戸市出身。建築デザインスタジオ[PAN- PROJECTS]をデンマークのコペンハーゲンにて設立。現在はイギリスのロンドンを拠点に活動を展開する。多様性ある社会を祝福し推し進める建築の在り方を目指し、建築設計を中心に据えながら、アートインスタレーションやプロダクトデザインなど、幅広い領域にわたるプロジェクトを手がける。