
連載「クラッシュカレーの旅」 #23
ロイヤルストレートクラッシュ/東京・浅草・石臼・叩き旅
ポーカーの役で最も強力なものは、ロイヤルストレートフラッシュである。5枚のカードがすべて同じマークで、「10・J・Q・K・A」と連続して揃った場合に成立する。もちろん自分が上がったことはない役だ。
ところが1年前のイベントで作ったカレーの写真を見ていたら、人生で初めてのロイヤルストレートフラッシュを決めていたことに気がついた。いや、ロイヤルストレートフラッシュならぬ、ロイヤルストレートクラッシュである。1万人カレーというイベントでクラッシュカレーを作った。5枚のカードが見事に揃っていたのだ。

1枚目のカードは、友人Aから教わった石臼である。タイ最高級アンシラー産の石臼で、タイの友人料理人が教えてくれた。彼の案内で僕は工房を2年に分けて2度訪れ、取材をして自著『クラッシュカレー』にコラムを掲載した上に、合計3台の石臼を購入した。

本が出版されたとき、「アンシラーを叩いてみませんか?」という呼びかけをして、3台のうち2台を全国へ旅立たせた。各地で「借りたい、叩いてみたい」という人に使用料無料、送料のみ負担で届けている。1年の間に2台はずいぶん長い距離を旅している。
2枚目のカードは、友人Bがプレゼントしてくれた石臼を使うときのマット。石臼はかなりの力で叩きつける上に大きな音が鳴る。衝撃を抑えつつ、騒音を防止したい。友人Aに聞いてみると「タイ人は破れたTシャツとかを敷いてるよ」とのこと。

いや、僕は専用のマットがほしい。すると友人Bが行きつけのタイ料理屋で見つけ、買ってくれた。手触りがよく使いやすいマットはタイ北部在住の日本人が手作りしてくれているという。僕はタイ渡航時に彼女に会いに行き、追加でいくつかのマットを購入し、友人たちに配った。
3枚目のカードは、友人Cが手作りしてくれた石臼専用巾着袋。学生時代に服飾デザインを学んだという友人が「いつもお世話になっているから」とプレゼントしてくれた。サイズがぴったりなだけでなく、生地がかわいらしかったり底の部分にはクッションが宛ててあったり、と凝っている。

気に入って使っていると、「前回の納得していない点を改善した」と新しい巾着袋が届く。結果、3台の石臼を3種類の袋に収納している。石臼を叩く行為に対して少し厳粛な気持ちになるのは、この袋のおかげだと思う。
4枚目のカードは、友人Dと一緒に印刷したシルクスクリーンのTシャツ。自著『クラッシュカレー』出版を記念して、シルクスクリーンの版を作ろうじゃないか、というアイデアを提案してくれた。デザイナーにお願いして本体表紙のデザインをもらい、工房で版を作った。

それぞれ自分のTシャツやトートバッグを何枚か持ち込み、思い思いに印刷した。着ているとすこぶる評判がいい。「どこで売っているんですか?」とよく聞かれる。セルフサービスで持ち込んだ服に印刷できるイベントをしようと、と盛り上がっているが、まだ実現していない。
5枚目のカードは、友人Eが南インドを旅したお土産に買ってきてくれたスパイスセット。「パッケージに石臼のイラストが描いてあったからさ」。インドでも昔から石臼を使う。ペーストにする場合もあるし、スパイスクラッシャーとして粗くつぶすこともある。

イベントでクラッシュカレーをライブクッキングするときに、現場でプレゼントしてくれたから、急遽、使ってみることにした。贅沢に鍋に放り込み、牛の塊肉を煮込むのに使った。赤ワインと一緒に。2時間ほど煮込む間、スパイスはずっと穏やかにいい香りを放ち続けてくれた。

赤の香り玉を作り、ロイヤルストレートクラッシュカレーを作った。5人の大切な友人たちの優しい気持ちがひとつにまとまった、他にない味わいに仕上がった。いつか友人5名を一度に招待してクラッシュカレーをふるまいたいと思っている。


- AIR SPICE CEO
水野 仁輔 / Jinsuke Mizuno
AIR SPICE代表。1999年にカレーに特化した出張料理集団「東京カリ~番長」を立ち上げて以来、カレー専門の出張料理人として活動。カレーに関する著書は40冊以上。全国各地でライブクッキングを行い、世界各国へ取材旅へ出かけている。カレーの世界にプレーヤーを増やす「カレーの学校」を運営中。2016年春に本格カレーのレシピつきスパイスセットを定期頒布するサービス「AIR SPICE」を開始。 http://www.airspice.jp/
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