
vegetusのススメ
「枝豆」を制する者は夏を制す
じわりじわりと肌に針をさすかのような陽射しにどうしたらいいものかと頭を働かせようとはするものの暑さがどよ〜んと首の後ろあたりから背中にかけて巻き付いてきて思考を停止させるほどの力を持ち立ち上がるにしても歩くにしても同時に口元から溢れる言葉は「あちぃ〜っ」しか出てこず食欲もないことはないのだが何か食べたいものと考えてみても思いつかず極力外出は避けたいなぁと願えど仕入れには出掛けなければならず街中を歩いてみては視界に入ってくるのは、キンキンに冷えた生ビールの旗やポスターやらでいっそのこと朝昼晩と主食がビールでもいいのではないかと駄目な大人の発想に陥る今日この頃。
ビールといえば真っ先に浮かぶアテはなんだろうか?
枝豆、餃子……あとは何だろう?
それくらいしか出てこないくらい頭もやられているのだろうか。
そんなこんなで今回のテーマは「枝豆」にしよう。
名作漫画『SLAM DUNK』の中に「リバウンドを制する者は試合を制す」というセリフが出てきますが、そのフレーズを拝借すると
「枝豆を制する者は猛暑を制す」
「枝豆を制する者は二日酔いを制す」
といえばいいでしょうか。
夏の風物詩とも言える「枝豆」ですが、そもそも枝豆とはどのような食材なのか?
「畑の肉」と呼ばれる大豆。その大豆を未成熟な段階で収穫したのが枝豆です。枝に付いたままで売られていたからでしょう。一般的な大豆だけでなく黒豆などの未成熟なものも、枝がついていたら枝豆と呼ばれています。
他にも有名なものだと山形県の「だだちゃ豆」、丹波地方の「丹波黒豆大豆枝豆」、各地方のブランド品も存在し、甘みの強い早生品種「甘露」、他にも「白山」等もあります。
よく枝豆はお酒のアテとして出てきますが、それは味わい的に相性がいいのは勿論のこと、実は栄養素的にも的を得た組み合わせです。
枝豆には、たんぱく質、ビタミンB1、カリウム、食物繊維、鉄分等が含まれている。枝豆のたんぱく質に含まれるメチオニンはビタミンB1、ビタミンCと共にアルコールの分解を促して肝機能の働きを助けてくれます。だだちゃ豆には疲労回復、美肌、若返りを促すオルニチンがしじみの数倍含まれています。
そして肝心のビタミンB1!
アルコール分解に必要な栄養素です。
アルコール飲料に枝豆は実に素晴らしい組み合わせなのです。ビールであれ日本酒であれワインであれ焼酎等の蒸留酒であれ、やはり傍に枝豆があれば嬉しくなります。そしてビタミンB1は消化液の分泌を促し糖質をエネルギーに変換するのを助けるのでスタミナ不足の解消にも繋がります。
香ばしい香りに甘旨味に塩味。つまみだしたら手がとまらなくなり、つい集中して飲み会でもみんな会話がとまり静まりかえってしまう。実に罪な食材です。
枝豆といえば茹で枝豆がポピュラーですが、最近は蒸し焼きで提供する飲食店も増えてきて実に嬉しい限り。
枝豆のビタミンCは加熱に強い方ではあるのですが、茹でると5割近くは流れ出てしまいます。そこで、蒸し焼きならばビタミンCの残存率は茹でに比べて約2倍。そして他の水溶性ビタミンやカリウム等のミネラルもそのまま。代謝を上げる効果のある酵素モリブデンもしっかり残ります。
じっくり火を入れることで酵素が糖を作り出すので甘みも強くなります。また、オリーブオイルやバターで炒めれば脂溶性ビタミンのビタミンKも一緒に摂取できます。
ここで大事なのが、枝豆は鮮度が命だということ。
枝豆は収穫後も呼吸を続けるので、その際に実の中のショ糖が使われるのです。枝豆の甘味のもとになるショ糖ですが、収穫後1日経過するだけで半分以下に落ちます。枝付きで売っていたら糖の減少を抑えられますので、もしスーパー等で枝付きが売っていたらそちらの方が栄養的にも味わい的にもオススメです。
いやいや枝から外すの面倒だよ、という方は冷凍枝豆がオススメです。旬の枝豆を急速冷凍してあるため栄養価や味わいはほぼ変わりません。
ということでこの猛暑の中にオススメする枝豆料理はこちら。
蒸し焼き枝豆
【材料】
・枝豆 お好みの量
・塩(粒子が大きめなものがオススメ) 適量
・オリーブオイルや米油、大豆油などの植物性油脂 適量(あまり油が多いと手がベタつくので注意)
【作り方】
①枝豆にしっかりと塩を揉み込む。
②フライパンで焦げ目がつくようにじっくりと素焼きする。
③フライパンに蓋をして弱火で5分ほど蒸し焼きにする。
④枝豆にオリーブオイルを振り全体に馴染ませる。
★ポイント
合わせるアルコール飲料によって色々とスパイスやハーブを加えても面白いよ。ビールだったら塩だけでもいいし、クミンなどを振りかけ炒めると食欲増進にもなります。赤ワインにもスパイス系、スパークリングワインや白ワインにはエルブドプロバンスのようなハーブ系がよく合います。蒸し焼き枝豆に細かく割いたブルーチーズを混ぜ合わせ軽く蜂蜜やメープルシロップをちょいとかけてあげると胃がきゅっと縮むような酸味の強いナチュラルワインとも相性が良くなります。
今回合わせる日本酒は、長野県上田市の「山三 純米吟醸生酒 金紋錦」。
枝豆のねっとり濃い旨味を、丸みのある酒質がうまくクッション材の役割を果たし涼やかな酸が下から枝豆の香り、風味を上顎の方へ持ち上げて余韻を長く楽しめます。
合わせる日本ワインは、山梨県勝沼の「フジクレール 吟果」。
程よい酸味とミネラルな味わいが枝豆に絡み合い酒食一体となった新しい味わいが堪能できます。
- polyphony owner
竹口 敏樹 / Toshiki Takeguchi
映像カメラマンだった20代の頃、偶然立ち寄った酒場で日本酒のおいしさに開眼。独学で日本酒を学び、居酒屋勤務を経て東京・四谷に[酒徒庵]を開店。2015年に[酒徒庵]を閉店し、会員制の日本酒専門店[鎮守の森]をオープン。2021年には、サービスの朝日萌里さんとともに、自らが厨房に立ちラクト・オボ・ベジタブルのコース料理を提供する[polyphony]をオープン。著書に『もっと好きになる 日本酒選びの教科書』(ナツメ社刊)がある。
IG @polyphony2021