100年以上の歴史を持つベルギー自然発酵ビールのカンティヨン醸造所オーナーが初来日

ジャン・ヴァン・ロイ独占インタビュー「ビールはプロダクトではなくパートナー」


RiCE.pressRiCE.press  / Apr 22, 2019

ランビックというベルギー・ブリュッセル特有のビールがある。ビールの発酵のためには培養された酵母を用いるのが通常だが、ランビックの場合は、蓋の空いた発酵槽に入ったビールをこの地域に生息する野生酵母とバクテリアにさらすことで発酵させる。そして1〜3年の熟成と様々なブレンディングを経て生み出されるランビックビール。その味は初めて飲む人にとっては驚きを与えるだろう。 中でも世界中に熱狂的なファンを持つカンティヨン醸造所は、1900年に創業し現在も伝統的な製法を守るランビックメイカーだ。ブリュッセル郊外にある醸造所には「ブリュッセル・グース・ミュージアム」が併設されており、年間4万人もの見学者にその伝統製法を公開している。そんなランビックの伝道師であるカンティヨン醸造所オーナー、ジャン・ヴァン・ロイ氏が初来日(アジアも初)し、4月10日には渋谷・Mikkeller Tokyoに登場した。世界が羨んだ特別な夜の様子を、ジャン・ヴァン・ロイ氏のインタビューとともにお届けする。

寒雨降る夜となった水曜日の渋谷。Mikkeller Tokyoは、ジャン・ヴァン・ロイ氏訪問とこの日のために特別に揃えられたカンティヨンのビール7種のために集まった人々で溢れかえっていた。 ランビックは熟成とブレンドによって様々な種類のビールが生み出される。グースは異なる年代のランビックをブレンドしたビールで、ランビック伝統の香りと味を楽しむにはまず飲んでおきたいタイプ。他には、年代の異なるもののブレンドを行わないストレートランビックと呼ばれるグラン・クリュ・ブルオクセラや、チェリーを漬け込んだクリーク、木苺を漬け込んだロゼ・ド・ガンブリヌス、アプリコットを漬け込んだフフンなどの果実を使用したビールが並んだ。

▲ 1年と2年熟成のランビックとルバーブをブレンドしたナス。”Nath”はジャン・ヴァン・ロイさんの妻Nathalieさんの名前から。

店内ではジャン・ヴァン・ロイ氏がファンと気さくに話したり写真撮影に応じたりしていた。一様に感動した様子を隠しきれず、カンティヨンという醸造所の重要度がひしひしと伝わってきた。男性客に話を聞くと、7種類全てを開始2時間足らずでコンプリートし、ブリュッセルのカンティヨン醸造所も3度訪問したことがあるそうだ。 ジャン・ヴァン・ロイ氏がアジアを訪れるのは今回が初めて。その初アジアが日本であることを本人もとても喜んでいるそうだ。 「日本に来るのはちょっとした夢でした。素晴らしい食べ物がありますし、最近日本酒について勉強しはじめたんです。今回も小西酒造ともう一軒蔵元を見学させてもらう予定です。醤油が発酵によって作られることを知らなかったのですが、とても興味深いです。新しい発見をして、自分のランビックのためのアイデアを豊かにしたいと思います」 梅も注目している食材の一つだそうだ。酸味と相性抜群の梅はランビックにも合いそうだと新たなアイデアを考えているようだった。伝統的製法で醸造されながら、ブレンディングによって無限に広がるというランビックの世界。どのようにビールと向き合っているのだろうか。 「ランビックの醸造方法はいつも同じです。1年〜2年熟成させてからが私たちの勝負、ブレンディングの始まりです。異なる年代の樽や果物や花などをブレンドします。そこに終わりはありません。ランビック造りの楽しさはそこにあると思いますし、ランビックはそうした”実験”をするのに最適なビールだと思います。伝統的なランビックだけが良しとされていた時代には、異なる果物や花をブレンドする私のやり方が理解されませんでしたが、今ではそれも変わりました。新しい実験をすることは私にとって大きなやりがいです」 必ずしも新しいビールを作るということではなく、時折予期せぬ反応を見せるビールとのやりとりを楽しんでいるのだという。空気中に漂う野生酵母を使った自然発酵という方法自体、どこか神秘的であり人知を超えた感がある。 「ランビックの素晴らしい点の一つはブレンディング、もう一つは自然環境です。自然環境という意味では、私は何の役割も果たしていないといえます。私の先祖が1900年にブレンダーとしてスタートし、1938年から醸造をしてきました。1世紀以上の時をかけて作られたあの環境こそがもっとも重要な役割を果たしているのです。私たちがランビックのためにこの環境を作ったともいえますし、ランビック自体が作った環境ともいえます。もし明日カンティヨンが別の場所に移ったら、同じビールはできなくなるでしょう」 特別な自然環境と歴史によって成り立ち、ランビックに人生を捧げてきた一族によって維持されてきたカンティヨン醸造所が、世界中のビールファン憧れの地として現在も多くの訪問者を迎えている理由がよく理解できる。 「私にとってビールはプロダクトではなくパートナーです。ランビックはランビックとして生きているのです。ビールをコントロールすることはできません。マスターが何かをコントロールし支配すると存在だとすると、私はマスターブルワーではないと常日頃言っています。ランビックがいつ出来上がるかは私が決めるのではなく、ランビックが決めるのです」

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