連載「琥珀色の余韻を過ごす〜スコットランド滞在記〜」#1
30歳、キャリアチェンジのきっかけをつくったバーテンダー
人生を動かす出会いというのは、いつどこに転がっているのか分かりません。
僕は先月からウイスキーの本場スコットランドでの生活をスタートしました。それも人口わずか500人のクライゲラヒという村で。この連載だって、スコットランドに出発する1週間前、池尻大橋の『namida』にて、編集長の稲田さんとたまたま居合わせたことがきっかけです。
申し遅れましたが、樋口(ひぐち)と申します。つい1,2ヶ月前まではプロジェクトマネジャーとして、PR案件に携わっていたり、自治体案件を推進していました。それがなんの偶然の重なりか、30歳になった今スコットランドのホテル&バー『Highlander Inn.』での新しい人生をはじめています。
連載1記事目は僕がスコットランドにいる理由、その大きな理由のひとつであるウイスキーに感じる魅力を綴ってみます。
知らない人にはついていくな(?)
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人生を大きく動かした出会いは2025年9月。20代のうちにやり残したことに取り組もうと、3週間かけて人生初のヨーロッパ旅に出ました。
パリで本場のフレンチ料理を食べたいと渥美創太シェフの『MAISON』で舌鼓を打ち、ケルンでは友人おすすめのレストランでビールとソーセージの組み合わせに唸り、フィンランドではワーホリ中の友人と会って、海外暮らしへの憧れを抱き、ウイスキーの聖地であるスコットランドのスペイサイドとアイラ島を巡る。
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どれも記憶に残る体験ばかり。その中でも明確に僕の人生を変えたのはスコットランド・スペイサイドでの偶然の出会いでした。
ちなみにスペイサイドはスコットランドの全蒸留所の約4割に及ぶおよそ50ヶ所の蒸留所が集中する世界有数のウイスキー生産地。マッカランやグレンフィディックといった、日本でも聞き馴染みのあるウイスキーがこのエリアから生まれています。
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そのスペイサイドに位置する『アベラワー蒸留所』でのテイスティングツアーを終えて、ホテルに戻ろうと、1時間に1本しか通っていないバスを待っていた僕。
「日本人ですか?」
日本語で声をかけられて咄嗟に反応できなかったけど、どうやら僕に声をかけてくれたらしい。話しかけてくれた相手もやはり日本人。
「よかったらホテルまで送っていくよ。」
知らない人にはついていかない、と教育を受けてきた日本人ではあるけど、ここはスコットランド。こうした出会いも旅の楽しみだと思って、お言葉に甘えることに。この選択がこの先の人生を変えていくとは思いもよりませんでした。
踊るように働くジャパニーズ
車内で話を聞くと、神奈川の相模大野でバー『スクラブスター』を営むマスターだとか。年に1度、自分へのご褒美と買い付けを兼ねてスコットランドに来ているのだそう。日本人を見かけると声をかけるのは、過去に自分がスコットランドに来たときに、同じような経験をしたのが嬉しかったからというエピソードも。
そんな素敵な紳士が無事ホテルまで送り届けてくれました。が、さらなる提案を。
「今日、僕が泊まってるホテルのウイスキーバー行ってみない?」
これまでの人生やウイスキーにまつわる話を聞いて、すっかり魅了された僕は二つ返事で「ぜひ行かせてください」と伝えて、来た道を再び戻ってクライゲラヒの村へと向かうのでした。
そして、お店に到着。階段を降りて扉を開けると、そこは色んな属性の方々が楽しげな雰囲気で賑わうウイスキーパブ。その中でも特に印象に残ったのが、慣れない海外での接客というビハインドを全く感じさせず、素敵な雰囲気を練り上げている2人の日本人バーテンダーでした。
ウイスキーの知識はもちろん、ホスピタリティに溢れる接客で喜びに満ちた空間をつくりあげる。日本のバーにはしっとりムーディな印象がありますが、ここでは人々が賑やかに交流していました。
その印象が帰国してからも忘れられず、オーナーにメールを送り、Zoomをすることに。「来て良いよ」とたった15分で決まり、逆に心配になりましたが、その場所こそが僕が今働かせてもらっている『Highlander Inn.』です。
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これから連載がスタートします
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元々ウイスキーは好きじゃない。むしろ嫌いな飲み物でした。そんな僕が京都の喫茶店『六曜社』で飲んだウイスキー珈琲をきっかけにして、今やスコットランドで働くくらいには好きになったんだから、ウイスキーはもっと多くの人が好きになるポテンシャルのある飲み物だと思っています。
ウイスキーは珈琲ととても似ていて、産地による違いや製造方法の違いがダイレクトに反映されます。また、ビールなどの醸造酒とは違って、アルコール度数が高いこともあり、ゆっくりちびちび飲みながら、余韻も味わえるのがウイスキーの良いところ。その点も珈琲と似ている気がします。
また、ウイスキーと珈琲は似ているだけではなく、相性もとても良い。ウイスキーと珈琲をベースにしたアイリッシュコーヒーというカクテルがありますが、そこに着想を得て、ウイスキーに珈琲豆を漬け込んだドリンクを独自で楽しんでいました。
一方、珈琲と違うのは樽熟成による変化を完全には解明できていないという神秘的な側面もあるところ。長い時間をかけて生まれてくる飲み物だと思うと、熟成された時間に思いを馳せるだけでも自然と感謝が湧いてきます。
さて、そんなウイスキーの魅力を、自分が感じたフィーリングのまま、できるだけ蘊蓄臭くならず。本場スコットランドからお届けしていきます。どうぞよろしくお願いします。

- Coffee whisky Lab.
樋口佑樹 / Yuki Higuchi
30歳からプロジェクトマネジャーとしてのキャリアを一新して、2026年ウイスキーの本場スコットランドに移住。ホテル&パブ「Highlander Inn」でウイスキー修行をしながら、休日に蒸留所を巡る。自分をいかして生きるための余韻を求めて、ウイスキーを探求中。 IG:@higu_nobless