
波平龍一の暮らしの料理 第六回
いちじくは、オールラウンダー
日中はまだまだ厳しすぎる日差しにやられてしまいそうになりますが、8月に入ったあたりから、自宅がある東京青梅の夜には、秋の気配が色濃く感じられるようになってきました。
夕暮れ時に山を抜けてくる風はとても心地良く、鈴虫の音色も日に日に大きくなっているような気がします。なんとなく酸っぱい料理を欲する頻度は減って、我が家の食卓には秋めいた味覚が並び始めてます。今回のレシピはまさにそんな秋先取りメニューのうちの一つをご紹介!
お盆に妻が実家の愛知に帰省して、お土産にいちじくを買ってきてくれたのが発想のきっかけでした。青梅で有機野菜を育てる若手農家さん達が、共同運営している「Tokyo Kitchen Garden Market」という無人販売所で、ちょうど“薩摩白長茄子”を手に入れていて、パープル×淡いグリーンの配色もかわいらしいなと思ったので早速合わせてみることに。
いちじくは果物ですが甘みが淡いので、調理させてもらえる余白を持っているなと感じることが多々あります。これまでにも、竜田揚げや、白和えにごま和え、もちろんデザートとしても実にさまざまな形で調理してきました。
対して、今回合わせた薩摩白長茄子はフルーティーな香りや果肉感がある野菜。「野菜っぽい果物」と、「果物っぽい野菜」のお互いが歩み寄れば、いいバランスに着地するのではという企みが見事に形になったので、正直めちゃめちゃ嬉しかったです。
薩摩白長茄子はなかなかスーパーではお目にかかれない野菜かと思いますので、この機会に普段買わないような色の茄子にチャレンジしてみるのも面白いのではないでしょうか。
この品種の茄子も相性が良かったよ!という発見があれば教えてくださいね。
全国的にも、これから本格的にいちじくの流通が始まっていくはずですので、スーパーで見かけた時には是非ともこのレシピを思い出してほしいです。
RECIPE|薩摩白長茄子といちじくの揚げ煮
【材料(2人分)】
・いちじく 2つ
・薩摩白なす 1本
・油 大さじ2
<調味だし>
・煮干し出汁 180~200ml
※煮干しでなくても問題ありません。おうちにあるもので。
・醤油 大さじ1
・みりん 大さじ1
・米酢 小さじ1
・酒 大さじ2
・砂糖 小さじ1
・塩 1~2つまみ
・花椒 適量(多めがおすすめ)
【手順】
①食材を切る。
いちじくをくし切りにする。茄子の皮は剥かず、いちじくと同じくらいの大きさに切り分ける。
②炒める。
①で切り分けた材料をフライパンで炒め合わせる。茄子に適度に油を吸わせてトロッとした食感を作るのがポイント。
③出汁と調味料を加える。
<調味出汁>に含まれる材料をフライパンに加える。5分ほど中火にかけたら出来上がり。お皿に盛り付けて、お好みの量の花椒を振りかけてどうぞ。
僕らのごちそう/ご馳走
いちじく特有のあの香りが花椒と合わさると、蕩けるような香りと痺れる風味が絶妙に重なって飽きの来ない仕上がりになるのでおすすめです。加熱したいちじくは生の時よりも香りが強まりますから、花椒は思い切りよく振りかけるのがポイントですよ。
今振り返ってみると、早めの時期のいちじくであったからこそ最旬の時期のものよりも少し青味があって、お料理としてまとまったのかなと。
愛知の出始めのいちじくと、青梅の名残りの茄子を合わせた料理なんて、昔なら考えられないような組み合わせだったのでは?と思うと、現代に生きる我々だからこそ体感できる贅沢な味覚体験であるようにも思えます。
世に言う「ごちそう/御馳走」とは、昔はお客の食事を用意するために各地に馬を走らせて食材を集めたことが由来になっている言葉だそうです。今や馬を走らせる必要もなく、全国各地の食材に触れられている僕たちは、計らずも毎日「ごちそう」にありつけているのかもしれませんね。
全6回。改めて日々の食事のことを深く考えて文章にする中で「暮らしの料理」の贅沢さがより自分の中で鮮明になったように思います。素敵な気づきを得るきっかけをくださったRiCEさんに大大大感謝です。
外でのきらびやかな食事も現代における楽しみなのは言うまでもありませんが、自宅で楽しむ食事にしかない魅力もたくさんあると思っています。
自分なりの視点を持って食材を選んでみたり、ちょっと遠くの良いスーパーに行ってみたり、近くの精肉店でお店の人にお話を聞きながらお肉を買い求めてみたり。日々の食事は、ちょっとしたことでどんどん楽しくなります!
今回ご紹介した6品はあくまで、僕らの日々から生まれるお料理たちです。みなさんが過ごす日々からも、それぞれにオリジナルな素晴らしい「暮らしの料理」がきっと生み出されているのでしょうし、生まれていくんだと思います。
いつの日か「我が家の暮らしの料理はこんなに魅力的なんだぞ!」と自慢し合うような、平和で豊かな集いが開催できたらいいなあという妄想を膨らませつつ、、
案外、近い将来にやってくるかもしれないそんな日を夢見ながら、ここ東京青梅で、引き続き“僕らのご馳走”を自由に楽しんで行きたいと思います。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!!
- 暮らしの料理 調理担当
波平 龍一 / Ryuichi Namihira
1993年、神奈川県出身。大学卒業後、東京の懐石料理店にて料理人としてのキャリアをスタート。その後、京都に拠点を移し、中東篤志氏に師事。現在は、東京あきる野にて自然農に取り組んでいる、妻の波平雪乃と共に[暮らしの料理]の屋号で晩御飯企画を主宰。 その他イベントへの参加や商品開発を中心にフリーで活動中。
IG @namihei_kome