
連載「シティライツ・レストラン」#12
ペンで綴られた文字の速度に反響するコーヒー屋
この日は土曜日には珍しく早起きができ、朝から20キロほど走り、洗濯や掃除を済ませ、作り置きしておいた冷菜で昼食をとり、13時にはもうコーヒーを飲みにやってきました。上々な休日の始まりです。
手紙を書くためにコーヒー屋さんへ来ました。1ヶ月以上前に盛岡にある[くふや]というお店を訪れ、昼食を食べた後に少し民藝や骨董の話をしたところ、退店の際に名前と住所を聞いていただきました。その数日後、[くふや]の店主から手紙が届き、そこに書かれていた京都のお勧めのコーヒー屋さんに来てみたというわけです。
入口は敢えて人の目につかない場所にあり、店内の照明は数を極力減らし明るさをおさえている。正直なところ普段なら自分から進んで入るようなお店ではありませんが、その潔さや店員さんの小さな話し声から、一気にお店の雰囲気に引き込まれました。
普段は浅煎りのコーヒーをよく飲むのに、この日は「浅めか濃いめか」と聞かれて、なぜか濃いめを選びました。いまだに自分でも理由がわかりません。
コーヒーが抽出されるときの液体の落ちる音と、店内に流れる穏やかなピアノの音に包まれ、無意識のうちに直線や文字の角に気を配りながらペンを走らせていました。周りから入ってくる情報が最小限だからこそ、手紙の内容と送り先の方へ想いに集中することができました。
手紙を書き終えると、[くふや]で買った『くふや くわづ』という全約60ページの本を開き、読み終える頃にはコーヒーもすっかり飲み干していました。
京都では珍しいほど落ち着いていて、人の少ない店内でした。お店としては必ずしも喜ばしい状況ではないかもしれませんが、それをあえて狙いながらも、商いが成り立つぎりぎりの塩梅を見極めているのではないかと感じました。手紙と本に真正面から向き合うことができた、とても良いコーヒー休憩でした。
さて、『くふや くわづ』にも書かれていましたが、繁盛するより長続き、そのお店にしかないなにかがある状態こそ尊いのだと思います。このコーヒー屋さんも時代の流れに左右されず、店内に流れる時の速さを、メトロノームのように一定のテンポで刻み続けてほしいと願っています。そんな思いを込めて、店名は伏せたいと思います。コーヒーブレイクのようなエッセイの文量になりました。書いた手紙に切手を貼り、風景印を押していただくべく郵便局へ向かう、そんな昼さがりでした。
- Naru Developments
上沼 佑也 / Yuya Uenuma
1995年生まれ、埼玉県出身。中学から都内の学校に通っていたこともあり、約15年間は東京で時間を過ごし、2022年10月より京都へ移住。明治大学とカリフォルニア州立大学へ通い、卒業後はコンサルティングファームに就職。その後、Insitu(現Staple)に入社し、ホテルや飲食店、Coffeeブランドの立ち上げなどを経験したのち、Naru Developmentsに転籍。現在は旅館の企画開発や運営に携わる。趣味は食べ・飲みに加え、ランニング(太らないために)とサッカー(アーセナルファン)。湯呑や椅子などをはじめモノ好きで、リサイクルショップのオンラインストアをチェックすることが日課になっている。