焼酎×音楽×食のマリアージュ!で巡る“焼酎の今”

「焼酎と音のテロワール」イベントレポート


RiCE.pressRiCE.press  / Aug 21, 2025

高輪ゲートウェイに期間限定で登場した音楽やアートの実験の場[ZERO SITE]。“風土と響き”をテーマにしたイベント、ZERO COMMUNE vol.3「焼酎と音のテロワール」が開催された。テーマは “HIGH-STAINABLE”。ただ続けるだけじゃなく、土地や人の個性を活かしながら未来につなげる。焼酎を通して、そのヒントを探す一夜となった。そんなイベントの模様をお届け🌙🌃

―焼酎を語り合う3つのトークセッション―

会場に入ると、ゆったりとした音楽が流れ、ステージ前にはソファや椅子。登壇者との距離も近く、くつろいだ雰囲気だ。来場者はグラスを片手にソファに腰掛け、ほどよい緊張と期待の中で開演を待っている。

進行役は『RiCE』稲田編集長。落ち着いたやりとりで会話を進め、ときには核心に迫る質問も投げかける。蔵の背景や土地の様子、造りのこだわりなど、登壇者の言葉を自然に引き出していった。

セッション1:伝統の作りと杜氏の哲学 中村酒造場 × すき酒造

鹿児島と宮崎。杜氏の仕事、受け継いできたつくりの話。お互いの焼酎を味わい、その印象を語るやりとりから会話がほぐれていく。

すき酒造の児玉昇さんは、「こんなにきれいにシンプルな味に造りあげるのが一番難しい」と「なかむら」を称賛。中村酒造場の中村慎弥さんは、「山猪(ヤマジシ)」について「この味、どうやって造っているのか全くわからない」と素直に返す。敬意を示し合いながら、黒瀬杜氏と阿多杜氏、二つの異なる背景と焼酎造りの歴史にも話が及ぶ。造り方や歩んできた道の違いが、蔵の個性を形づくっていることが、改めて見えてきた。和やかな笑いの中にも、奥行きのある会話が続いた。

セッション2:インフュージョンという新しい挑戦 渡邊酒造場 × 天盃酒造

一転して熱を帯びたテーマは、焼酎に素材の香りや風味を移す「インフュージョンスピリッツ」。まだ一般にはあまり馴染みがないが、造り手たちが“新しい焼酎のジャンル”として提案している取り組みだ。

天盃酒造の多田匠さんは、カンボジア産の「倉田ペッパー」を麦焼酎に漬け込んだ。この胡椒は、日本人の倉田さんが現地で復興に情熱を注ぎ、世界へと広めたブランドであり、力強い辛味と華やかな香り、ほのかな甘みが特徴だ。焼酎に合わせるとよりスパイスの立体感が際立つ。

渡邊酒造場の渡邊幸⼀朗さんは、麦焼酎にさらに麦を漬け込み、麦100%で仕上げた「ヒダマ」の工程を紹介。暑い中、中華鍋を振りながら漬け込み用の麦を焙煎し、焦げそうになる瞬間を見極めながら何度も試行錯誤を重ねたという。その苦労話に、会場から笑い声がこぼれた。

熱を帯びた造り手の言葉が重なり合う中、稲田編集長がさりげなく話題を次へつないだ。

セッション3:島の音と黒糖焼酎 富田酒造場 × 西平酒造 × Yosi Horikawa
―奄美大島の黒糖焼酎をめぐる物語―

西平酒造は、熟成中の黒糖焼酎に音楽を聴かせる「音響熟成」を紹介。先代も杜氏も、そして一人娘で現代表の西平セレナさんもミュージシャンという蔵で、その音楽的背景を生かした新しい試みだ。なんと聴かせるのは、レゲエや島の民謡、ラテン、ヒップホップまで。ベースの振動が、樽の中の酒と響き合い、味わいの個性となっているのだろうか。

富田酒造場の杜氏、富田真行さんも、黒糖をそのまま固形の状態で仕込むという、先代とは異なる手法で造りを進化させている。世代を超えて、島の伝統に新しい息を吹き込む若いふたり。ゆったりとした掛け合いに、島特有のゆるやかな空気が会場に漂った。

そこへ、サウンドクリエーターYosi Horikawaが奄美大島で録音した音が流れる。波の音、サトウキビ畑のざわめき、早朝のらんかん山に響くアカショウビンの声。甕で焼酎を混ぜる粘りを帯びた重厚な音、仕込みに使う湧水の力強い響き。6チャンネルの立体音響が、頭上に映し出される自然の映像と重なり、会場全体がまるで島の世界だ。焼酎を片手に、音と光と香りに浸る時間と空間。誰もがゆっくりと呼吸を合わせ、深く没入した。

「アカショウビンという鳥の名前には、“くっつく”という意味があるんです。こういう場で人がつながり、何かが生まれると嬉しい」。最後の富田さんの言葉が、静かな余韻を残した。

―焼酎を注ぎ、言葉を交わす―

セッション後は、西麻布の酒のセレクトショップ兎と寅]がおくる「Drink Me, Shochu!」交流タイム。DJ MOODMANのビートが流れる中、蔵元がそれぞれのブースで自ら焼酎を注ぎ、来場者と笑顔で言葉を交わす。

「こんな飲み方あるんだ!」「これ、香りが面白い!」あちらこちらで声が上がった。

フードを手掛けたのは、フードスタイリスト・アベクミコさん。主催者は、甘み・塩味・酸味・スパイス&ハーブなど多彩な味わいを持つタイ料理が、焼酎によく合い、自在に組み合わせられることから、この日のペアリングフードに選んだという。「ソムタムコリンキー」、「マサマンボール」、「ズッキーニとチキンのグリーンカレー」…。それぞれと焼酎の組み合わせを味わいながら、「合うね」「これは新しい発見」といった納得の声も。

焼酎を飲むことは、その土地の水や空気、人の営みを味わうこと。
この夜は、そこに音と会場に集まった人々の声、そしていろんな味が響き合っていた。造り手の声や背景を知ることで、味わいはぐっと深まる。

ただ飲んで食べるだけでなく、その先にある物語や土地の空気に思いを巡らせながらじっくりと味わう。この新しい焼酎体験は、そんなことを実感させてくれた。日々の一杯やひと皿との向き合い方が、これから少しずつ変わっていくだろう。そんな気がする素敵な夜となった。

Text by  Girl Friday

【参加蔵】
すき酒造(宮崎)
明治43年創業。芋・麦・栗焼酎を和甕と伏流水で仕込む、伝統と手仕事の蔵。
天盃酒造(福岡)
大麦100%焼酎の先駆け。 文化継承の担い手として業界でも前例のない挑戦を続け、クラフト精神が宿る挑戦的な蔵。
富田酒造場(奄美大島)
奄美で全量かめ仕込みを続ける希少な蔵。『あるがまま』の思いを大事に、その時代に出来うる最善を尽くしながら黒糖焼酎を造り続ける。
中村酒造場(鹿児島)
霧島の地で創業1888年より続く芋焼酎蔵。昔ながらの手造り製法を基に自然回帰的な考えと手仕事をもって新しい挑戦を続ける。
西平酒造(奄美大島)
黒糖焼酎に音楽を聴かせる「Sonic Aging」など代表、杜氏を筆頭に音楽家で造る“音楽を醸す”焼酎蔵。
渡邊酒造場(宮崎)
兄弟で自ら農作物を育て、蔵周囲の微生物とともに仕込む風土一体型の造り手。

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