
#僕に発酵できないものはない 第四回
人参麹🥕
今回は数ある発酵菌の中でも僕の推し菌、麹菌について語りたいと思います!!
推し菌についてこうして語る機会に今回は熱量高いです!!!
そもそも麹菌とはカビの仲間で、「麹菌=麹カビ」ですね。
学名ではアスペルギルスというかっこいい名前が付いている微生物たち、もうまずこのネーミングだけで推せますね、アスペルギルス。
そんなアスペルギルス属には182種類の菌種が分類されています。
182種類のカビのうち、食べ物に発生し食べてしまったり体内に吸い込むと有害なカビがある一方、ブルーチーズやカマンベールチーズに代表される青カビや白カビのように食べても無害なパターンがあり、僕ら人間は後者を発酵食品として取り入れているわけです。
僕が麹菌を推し菌とするポイントは二つありまして、一つ目は例えば乳酸菌ができることは酵素を出して糖を乳酸に分解するだけだったり、酢酸菌はアルコールを酢酸に分解するのみ、酵母も糖を分解しアルコールを生成するだけといったように「一つの仕事」しかしないのに対し、麹菌はその生命活動の中で酵素を分泌しタンパク質をアミノ酸(うま味)に、デンプンをブドウ糖(甘味)に、脂肪を脂肪酸(エネルギー)とグリセロール(甘味)に分解します。
つまり同時に様々なタスクを処理しているイメージで、麹菌は仕事ができるやつ!!!!
二つ目は、このアミノ酸やブドウ糖を栄養源に胞子を出しながら増殖し、この胞子こそがカビに見られる表面のフワフワしたものです。
食品に有害・無害なカビが生えると、視覚で認識できるくらい大きいのに対し、乳酸菌や酢酸菌など他の細菌類や酵母はどれだけ集まっても肉眼で見ることはできません。いかに麹カビがミクロな世界の中で巨大な存在かお判りでしょうか。
結論、デカくてしごできなんです麹カビは!
僕らが発酵食品作りに取り入れている麹菌には様々な種類があり、でんぷんを分解する力が強いニホンコウジカビ(アスペルギルスオリゼ)、タンパク質を分解する力が強いショウユコウジカビ(アスペルギルスソーヤ)、泡盛や焼酎製造の際に使われるアワモリコウジカビ(アスペルギルスアワモリ)、鰹節造りに使われる鰹節カビ(アスペルギルス・グラウカス)などなど……。
さて僕らのレストラン[enso]では、この麹菌を使って開業以来様々なたんぱく質やデンプンを発酵させてきました。
大豆のタンパク質の代わりに魚のタンパク質を使った味噌や様々な肉種を液体状の調味料にした肉醤、とうもろこしやじゃがいもなどデンプンを多量に含む食材をアミノ酸ペーストにしたりなど。
実践と検証を繰り返す中で気付いたのは「少量でもタンパク質やでんぷんが含まれている食材であれば麹菌を使って発酵することができるな」ということ。
以上の理由から今回行う実験に選んだ食材は人参です。
食品成分表によると人参は100g中でんぷんは約9gほどと含有量自体は少ないので、じゃがいもやさつまいものようなデンプン質の野菜には分類されないお野菜です。
体感的にも人参がこの実験に向いているなと思うのは、人参を普段レストランで調理する過程で特別な技術を使って時間をかけて火を入れると非常に甘くなる=加熱によりでんぷんをしっかり分解してブドウ糖に変換することができるので、デンプン質ではないにしろ少なすぎないでんぷんが存在していると感じます。
ということで、人参の表皮で麹菌を増殖する実験を行います。
まずは人参の表面に均等に種麹を振りかけます
この種麹の中に麹菌が生きていて、人参のデンプンを餌に酵素を出しながら胞子を出します。
出すはず……。
初めての試みに少し不安。。。
種麹を全体にまぶした様子
ここから麹菌が活性化しやすい(活動しやすい)温度と湿度を保つ保温機で48時間ほど温めて保湿していきます。
そして48時間後……
醸ってる!!!!
人参の表皮にフワフワの胞子がびっしりと!
カットしてみると中は綺麗な人参カラー。
麹カビが水分を吸って、人参は少しシナっとしています。
保存のためにサランラップして置いておいたところ胞子が落ち着いてきて、外見がカマンベールチーズのような質感に。
白カビチーズならぬ白カビ人参に!
実験の成功に気分が良くなった僕はビーツやトマトでも同様に種麹を振りかけ活性化させてみたところ、同じように胞子もふもふに。
ビーツはその強い色素で先端がうっすらピンクに染まりKawaii♡
実験の成功とは裏腹にこれをどのように美味しいお料理に取り入れるか、料理人としての僕の苦悩がまた始まります。
- enso chef
藤井 匠 / Takumi Fujii
六本木[ブリコラージュ ブレッド & カンパニー]の開業時から料理長として活躍。2022年4月、鎌倉に[enso]をシェフとしてオープン。鎌倉を中心とした地場の野菜に、自ら発酵させて作る調味料をかけあわせた料理が注目される。
IG @enso_osaji