小豆島・坂手港に複合施設[neiw(ニュー)]がオープン

港町に生まれた “新しくて、えい” 居場所


RiCE.pressRiCE.press  / Jan 21, 2026

「食べて、飲んで、観て、語らえる」

瀬戸内海に浮かぶ香川県・小豆島。

温暖な気候と穏やかな海に囲まれたこの島は、オリーブの国内栽培発祥の地として知られているが、実はそのオリーブが根付く以前から、食の産業によって支えられてきた土地でもある。島の各地に残る醤油蔵や製麺所が物語るように、醤油づくりとそうめんづくりは、長く小豆島の基幹産業として受け継がれてきた。

そうした“食”の歴史を背景に持つ小豆島の南東部に位置する坂手(さかて)地区は、かつて関西と島を結ぶ航路の拠点として栄えた港町だ。人と物が行き交い、食文化もまた自然と混ざり合ってきた場所である。

その坂手港の旧フェリーターミナルを舞台に、20261月、複合施設[neiw(ニュー)]がグランドオープンした。

坂手港の旧フェリーターミナルに設けられた[neiw]の入り口。中には港町の日常と新しい営みをつなぐ光景が広がる。

改装工事は2025年夏から始まり、8月のイベント開催、11月からのプレオープン期間を経て本格始動。館内には、シェアキッチン「neiw kitchen」をはじめ、音楽・演劇・展示・映画上映などに対応するイベントスペース、ワークスペースを含むレンタルエリアが整えられている。さらに、小豆島の食材を扱う産直コーナーやゲスト飲食店の出店なども予定され、「食べて、飲んで、観て、語らえる」場として、少しずつ輪郭を現しはじめている。

広々とした空間の中で目を引く、小豆島の形を模した大きなテーブル。産直コーナーには島内の名産品はもちろん、島外やメンバーと縁のある地域のアイテム、オリジナルTシャツなどが並ぶ。

施設名の[neiw]は、“new(新しい)に、“i(私・あなた)を重ねた造語だ。「ここに関わるすべての人にとって、新しくて、えい(=いい)場所になりますように」。そんな願いが、この名前には込められている。

旧フェリーターミナルを活用するという選択

このプロジェクトが動き出したのは20234月。
瀬戸内国際芸術祭に関わってきた飲食事業者たちが、「何か一緒にやれる場所を探したい」と集まったことがきっかけだった。当初は任意団体としてスタートし、毎週のように顔を合わせては座談会を重ね、「こんな場所があったらいい」「こんなことができたら面白い」とアイデアを出し合ってきた。現在のコアメンバーは約10人。東京、大阪、そして地元小豆島と、そのバックグラウンドも実に多様だ。

neiw]の運営にあたっては、メンバーの共同出資で法人を設立。町や施設との契約を担う一方で、上下関係をつくらず、それぞれが起点になれる体制を大切にしている。誰かの思いつきから何かが始まり、そこに人が混ざっていく。そんな柔らかな運営スタイルが、この場所ならではの空気を形づくっている。

neiw]が入る建物は、かつて[川野回漕店]の倉庫として使われ、その後はフェリーターミナルやチケット売り場として長く坂手を支えてきた場所だ。
20254月に坂手港の新たなターミナルとして『さかてらす』が完成し、これまでのターミナルは将来的に取り壊される予定だと聞きました。だったら、自分たちで使わせてもらえないかと思ったんです」と、運営代表を務める瀧澤日以さんは振り返る。

壁面にはアーティスト・ヤノベケンジさんのコンセプトをもとに、絵師・岡村美紀さんが1ヶ月かけて制作した「小豆島縁起絵巻」が描かれている。

坂手の人々の営みを見守ってきたこの建物を、壊すのではなく、次の役割へと引き継ぐ。その選択が、[neiw]の出発点となった。

シェアキッチンが果たす役割

neiw]の中核をなす機能のひとつが、シェアキッチン「neiw kitchen」だ。このキッチンは、単に飲食店が間借りできる設備として設けられたものではない。

「仲間内だけで完結する場所にはしたくなかった。誰が来ても使える“空いている場所”を、意識的につくりたかったんです」と瀧澤さんは語る。そうした考えから、テナントを固定で入れるのではなく、あえてシェアキッチンという形式が選ばれた。

週末ごとに料理人が入れ替わる、シェアキッチン。ランチから夜の酒場まで、その週ならではの料理やお酒が楽しめる。今後は島外からのゲストシェフを呼んでのイベントなども積極的に企画していく予定。

小豆島は魅力的な土地である一方、新しく何かを始めようとすると、決して簡単ではない。店舗数は限られ、集客には地域とのネットワークが欠かせない。移住して店を始めたいと思っても、条件のいい場所はすでに埋まり、発信の仕方もわからない──そんな声も少なくないという。

だからこそ[neiw]では、まずここで「試してみる」ことを大切にしている。
シェアキッチンを通じて料理を出し、人と出会い、ファンやコミュニティを育てる。その先に、島の中での出店や新しい商いが生まれていく。初期投資が難しい状況でも、人とつながり、関係性を築くことができれば、助けてくれる人や興味を持ってくれる人は自然と増えていく。

町の中に小さな商いが点在し、それぞれが緩やかにつながっていく。
neiw]のシェアキッチンは、そんな風景を生み出すための仕組みでもあるのだ。

「食」を入口に、次の物語が始まる場所へ

楽しさや嬉しさは、人によって受け取り方が違う。けれど「おいしい」という感覚は、驚くほど多くの人と共有できる。

おいしいビールがあるから、一緒に飲もう。
おいしいごはんがあるから、一緒に食べよう。

その一言は、年齢や立場、土地の違いを越えて、誰にでも差し出すことができる。[neiw]がを軸に据える理由も、そこにある。

テナントとして小豆島のクラフトビール醸造所[まめまめびーる]が手がける[まめまめびーる食堂]が出店。クラフトビールとともに、人気の唐揚げなどフードメニューも充実。

今後は、食とエンターテインメントの掛け算にも力を入れていく構想だ。映画上映や音楽ライブ、演劇と食を組み合わせることで、滞在時間を延ばし、コミュニティをより深く育てていく。

1月11日にはイベントスペースのこけら落としとして、小豆島在住のアーティスト東郷清丸さんとゲスト真舟とわさんによるスペシャルライブも開催された。

ジャンボフェリーの再開や瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、坂手にも再び人の流れが戻りつつある。港は迎え入れる場所であり、同時に外へ出ていく拠点でもある。小豆島の食や文化を外へ持ち出し、また新しい刺激を島へ持ち帰る。その往復のなかで、町の風景は少しずつ更新されていく。

「新しいことをどんどん企画していきたいし、次の世代に手渡していきたいんです」と瀧澤さんは語る。常に新しいアイデアが生まれ、若い世代や、これから島に関わる人たちが自然に混ざれる余白を残していく。

グランドオープンとなった1月10日、11日の2日間。島内外から老若男女多くの方が訪れ、[neiw]への期待の高さを感じさせた。

neiw]は、食べて終わる場所ではない。
“おいしい”という最強の入口から、人が集い、交わり、次の物語が始まる場所だ。

坂手の港町で、静かに、しかし確かに育ち始めたこの拠点は、これからの小豆島の日常を少しずつ塗り替えていく。

坂手港のシンボル・モニュメントとなっているアート作品「スター・アンガー」。日没後から23:30頃までライトアップされる。

neiw
香川県小豆郡小豆島町坂手1849
TEL : 0879-62-8365
MAIL : info@neiw.jp
営業時間
月:11:30-20:30
火:13:00-20:30
水:13:00-20:30
木:定休日
金:11:30-18:00
土:11:30-22:30
日:11:30-22:30
※neiw kitchen
は出店者によって時間が異なりますので詳細は公式instagramをチェックしてください。
IG @dot_sakate

Photo by Kai Takizawa (写真 瀧澤日以)IG @kai_phablic
Text by Shingo Akuzawa(文 阿久沢慎吾)

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