HEAVENS KITCHEN

ソウダルアと壱岐島 その1


Lua SodaLua Soda  / Oct 13, 2018

~天地人のるつぼを味わった一日目~

前回は、僕と料理との出会いや思想ついて書かせていただきましたが、今回は編集長の稲田さんと一緒に旅をした壱岐についてのお話をしてみようと思います。

夏のある日、僕が主催したご飯会で友人たちと飲んでいるときに、稲田さんとお会いしました。食事も終えてお話をしていると、なにを思われたのか「今度、壱岐へ一緒にいきませんか?」と突然言われ、その口調の穏やかさと悠然とした佇まいに、20年来の恩師に従う弟子のように「はい、いきます!」と即答で答えていました。

そのような経緯で、僕は“壱岐を舞台にし、古事記をテーマに据え、多様なアーティストがそれぞれの形で表現をする雑誌”『COZIKI』に参加することになったのです。

それから一週間余りが経ち、ちょうど一通のメールが届きました。
そこには一緒に旅をする面々がずらり。想像以上のメンバーと想定以上の人数。久方ぶりの緊張を感じつつも、安心・安定よりも混沌を好む僕の心は期待でざわざわしました。

そして、迎えた壱岐の旅。羽田から福岡空港を経て、辿り着くは壱岐島。
切り立った崖と周りに点在する小島、青々とした芝生の稜線。遠目から見ても一筋縄ではいかなそうな変化に富んだ地形。
幻と言われる壱岐牛、豊富な魚たちはもちろん、海藻の類も期待ができる。麦焼酎の発祥の地でもあり、お米もつくっているとの噂。それに加えて、地元の海女さんがとる雲丹やサザエも気になります。

港に降り立ち散歩をしながら、胸いっぱいに壱岐の空気を吸い込んだところで、お腹が空いていることに気がつきました。まるでこどもの頃の遠足のように浮足立っていましたが、いまはお昼どきであったようです。

「今日はお寿司にしましょう」と、プロデューサーの鈴木さん。連れてこられたのは、町なかに入ったところにぽつんとある[鮨割烹 曽根]でした。目の前に流れる川にまで潮のにおいが漂い、壱岐の海の豊かさを感じさせます。

▲ 7080cmはある特大の伊勢海老。

お店に入ると水槽に入ったでっかい魚たちがどどんとお出迎え。ぼくの拳を(わたくしソウダルアは189cmの大男なのです)はるかに上回るサザエや、小顔の女の子なら隠れてしまいそうなほどのアワビ。とにかく、全部が大きいのです。きっと島の人たちが、必要な分だけしか獲っていないから、海中ですくすくと育っているのでしょう。

▲ [鮨割烹 曽根]のお寿司

いよいよお寿司がやってきました。さすが米どころでもある壱岐島。大きめのお寿司を口いっぱいに頬張ると、柔らかな酢飯の味わいがやってきて、そこから魚それぞれのうまみが感じられます。壱岐にある食材が存分に生かされた“地域のマリアージュ”を味わうことができました。あとで、こっそり店の裏を拝見したところお酒もしっかりと壱岐のものでした。

その後、島唯一の大型スーパーへ。こういうところは、その土地の特性が滲み出てくるので、ちょっとした宝探し気分でもあるのです。
入り口を入るなり、壱岐のぴちぴちとした野菜たちや、島のおばあちゃんたちが漬けたであろうお漬物、市場さながらの魚コーナーとわくわくさせてくれます。周りを見渡すと、休憩コーナーで談笑する老夫婦や元気に走り回る子どもたち。旅の仲間も思い思いに楽しんでいるさまにぼくも勝手にご満悦。

▲ [かっちゃん うどん]で食べた心温まるうどん

スーパーの一角にあった[かっちゃん うどん]でこっそりといただいた優しい出汁の味わいは島の持つ心地良さと相まって、ほっこりした気分にさせてもらいました。こうして、少しずつその土地に馴染んでゆく感じが好きなのです。

そこから、海にぽつんと浮かぶかわいらしい神社や島を一望できる博物館など、車で島をぐるぐると回りました。少し場所が変わるだけで海の水の味が変わるのもまたおもしろい。ぴりっとした切れの良い味もあれば、やわらかくまったりとした味もあり。これから出会う食材たちとどう合わせるか考えていると胸が高鳴ります。そんなことを思っていると、いつの間にか、今回料理をお披露目する会場でもある[みなとや]に着いていました。

釣り師のご主人と海女の奥さまご夫妻とお話。
「どんな魚が欲しい?」とご主人の漁志さん。
“えっ、そんな狙ったままに釣れるものなの?”と困惑してしていたところ、
「いまはサザエがいいから、明日の朝に潜りますね」と奥さまの香菜さんが畳み掛ける。

元々想定していたアイデアもありましたが、そんな思惑はふっ飛ばし「いまの壱岐の最高なものを教えてください!」と言いました。この人たちならおまかせしても絶対に大丈夫だと思えたのです。

頭の中を壱岐いっぱいにして、近所を散歩しているときらきらした目で見てくる地元の子どもたち。この子たちが喜んで食べるような島の料理を産み出したいなあ、なんて妄想が膨らんで、はじけて、ぶわーっと拡がって。また、それらをかき集めて、ひとつひとつを愛でて、自由で豊かで快楽的なパズルを想像して愉しみました。

そう言えば、幻と言われているあの肉はどうなったんだろう?と、思っていると稲田さんと鈴木さんが口を揃え「夕飯は壱岐牛の焼肉です」と。
さすがやで。さすが名編集長と名プロデューサーやで。(ソウダルアは大阪出身なので、たまに出てしまう方言はご容赦ください)
実は、壱岐牛を味わうのをずっと楽しみにしていたのです。脳が肉の味わいを想像し、口の中を唾液で充満させ、全身が壱岐牛を迎える準備に集中していきました。

▲ 壱岐牛の文字が大きく書かれた看板に期待。

美味しいものが味わえそうな予感を肌でひしひしと感じながら、[豊増]のなかへと向かいます。ずらりと並ぶ、壱岐の麦焼酎。壱岐の地産地消を感じつつも、まずはビールをごくり。真夏の陽射しに火照った体と乾いた喉を潤します。

そしてふと、このお店のメニューが、なかなかクセが強いことに気がつきました。壱岐牛のフォントより、なぜかキムチを大きく推している。色分けの規則性も見い出せない。肉を焼いて食べるというシンプルさでありつつも店のこだわりやアイデアが出る焼肉。そんなメニューから「そんな肩肘張らずにうちの島の美味しいもんを好きに楽しんでったらええんやで」という店主の思惑を感じとり、なんだかありがたく思いました。

あとはもう、焼く・食べる・飲む。そのループをただただ、謳歌しよう。みんなとお話しながら、この口福に身を委ねよう。そう思い、しゃっきりとした牛タンを食べつつ、ビールをごくり。キムチをひと切れ食べてはもう一口ぐびり。
旨みが濃厚なロース、赤身とサシのバランスが見事なハラミ、ぷりっぷりで脂がじゅわりとくるホルモンが入り乱れる。さらに、壱岐焼酎も参戦してきて、壱岐バトルロワイヤル。まるで、味覚の異種格闘技戦です。
使い込まれた畳に足を伸ばして見渡せば、みんなの顔に頬に赤みが差してきてなんともかわいらしい。そこで、この人たちと一緒にいられるのがあと三日なんて、さみしいな。とふと思いました。

▲ 壱岐牛を囲む『COZIKI』メンバー

出会ったばかりなのに、なぜかもうセンチメンタルな気持ちになったりしている自分にすこし照れてしまう。心地良く回った酔いに旅の疲れをほぐされて、チェックインしたホテルの部屋で、穏やかに響く声を持つ詩人の菅原敏さんとお話をしていると、きょう一日に起こった出来事がからだのなかに染み渡ってゆくようで、気がつくと沈み込むように眠りに落ちておりました。

二日目 悠久の時を刻む辰の島 鬼がつけた足あとに沈む夕日と風の歌のショウにつづく

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