個性派個人飲食店を桑沢デザイン研究所学生がブランディング

[アリク]は松陰神社前、若林を経て次のステージへ


RiCE.pressRiCE.press  / Mar 26, 2024

個性的なお店は、町の宝だ。店主の個性が反映された空間は、本人が生きてきた時間、その周りに集まった人たちとの時間が有形無形に積み重なった、味わい深いものになる。その評価というものは訪れる人の好み、タイミングによって大きく変わるだろう。まるで音楽ライブのように。期待する曲目、ボーカルの喉の調子、バンドの完成度と即興性、周りの客の反応などなど、飲食店の比喩として的外れではないはずだ。

[アリク]も、そうした類のお店だと思う。今は再開発でマンションに姿を変えてしまった松陰神社前の店舗で7年、環七通りのすぐそば若林で2年、その間にもさまざまな場所に出没し、硴(牡蠣)を中心にアリクという時間を作ってきた。店主・廣岡好和(よっしー、トップ写真)さんは今また、次の「アリクの形」を作ろうとしている最中だ。

というのも、2022年に移転オープンした若林の店舗は、入居当初から2年の定期借款と決まっていたため、今月でお店を”閉める”ことになっていたのだ。もちろん、それは「アリク」が終わるという意味でない。むしろ、その後のリスタートは移転する頃から意識していた。

その意識を共有していた一人に、グラフィックデザイナー/アートディレクターとして活躍する髙谷廉さんがいる。髙谷さんは松陰神社時代からの常連だが、ここ数年、それ以上の深さでアリクとよっしーさんに関わっていた。“松陰神社アリク”が閉まる際に自主制作した「アリク本」、それに先行してよっしーさんと共同制作した築地市場の日々を切り取った写真集「日々」(玄光社刊▷WEB)、“若林アリク”のキービジュアル「日々是、硴と酒」(▷WEB)などのアートディレクションを務め、公私混同(いい意味)でアリクと伴走してきた。

その髙谷さんが、講師を務める桑沢デザイン研究所の学生と一緒に企画したのが、今年1月27日に開催されたイベント「アリク祭”デ”」である。

アリクをアウターブランディングする祭り

それが、桑沢生に課せられたテーマだ。アウターブランディングとは、社外に向けて自社をアピールするための取り組みを指すが、ふつうの授業であれば企業を例に取りリサーチを行い、成果物を仕上げて終わりというものになるはず。しかし、今回の場合、個性的な個人店を例に取り、変化の最中にあるその対象を体外的に表現し、今後に寄与するような形をつくろう、というもの。髙谷先生も「全てが未知数の中で走り出したことは、学生にとっては不安もあって大変だったはず」と振り返る。

「与えられる課題とは違って、ゴールは(課題提出より)もっと先にある。よっしーがどんなヒントを受け取って、次のアリクがどういう形になって機能するかということが見えてきて、初めて答え合わせになる。学生にとっても課題として終わりではなく、その後も“生きる”ものになるだろうと。でも正直、1月の寒い時期でしたし、常連さん中心に20人くらい来ればと思っていました」(髙谷さん)

蓋を開けてみれば、当日は大人から子供までが行き交い混じり合う大盛況。よっしーさんが硴をむいたりむかなかったり、カレーがあったり、日本酒があったり、獅子舞、タップダンス、バンド演奏、ポエトリーリーディングなどなど。アリクにまつわるエトセトラが、まさにお祭り状態で下北沢に集まった。

桑沢生が制作した「アリク図鑑」

千社札

アリク人生ゲームも盛況

食べるごとに増える貝塚

その混ざり合いこそがアリクらしさなのだと感じたが、せっかくの機会、その場に集う人たちに一つの問いを投げかけたくてしょうがなかった。

アリクとは何者なのか?

アリクは硴や刺身を中心とした小料理とお酒が楽しめる酒場だ。と思えば、店内でアート展示が行われたり、餅つきが年中開催されたり、店主が知人の店を訪れて弾き語りをしたり、「硴の店」の一言では表しきれない存在なのだ。

そこで、当日会場で話を聞けた数人の答えを短い映像にまとめてみた。

出演協力:髙谷廉(AD&D)、丸山廉太郎(当時桑沢生)、塚崎りさ子&春山えみり(お燗番ユニット つやっこ)、沼田学(写真家)、山口淳(元スタッフ、パフォーマー)、道山れいん(詩人)、島村吉人(パン店[hnn]、村上慧(元スタッフ、カレー店[浮き雲]) (出演順、敬称略)

謎はむしろ深まったかもしれない。
でも、それでいいと思う。

髙谷さんは「偶発性」がアリクに通底するテーマの一つだと語ってくれた。祭りをやることになったのも人の縁とタイミングの巡り合わせといえるし、祭りのラインナップにしてもこれまでアリクの周りに積み重なった偶然の一部といえる。

そんな不思議で、味わい深いお店こそ、自分が知りたかったお店なのだと思う。

次のステージ

何者か?なんていう問いは意に介さないかのように、アリクは次に向かって変化を止めない。「アリク祭」では、移転などにかかる費用への支援金を募った。桑沢生の努力のおかげもあり、予想以上の成果が得られた。

このイベントレポートをまとめるのに手間取っている間に、計画は順調に進んでいたそうで、まもなく移転先を発表できるとのことだ。学生たちが「アリク祭」で表現した、“松陰神社アリクのコの字カウンター”も復活するかもしれない。

今度行く時は、どんなライブを繰り広げてくれるだろう?

マルショウ アリク
<追記!!>新店舗が4月10日に移転オープン決定。
東京都世田谷区世田谷4-20-3
東急世田谷線「松陰神社前」「世田谷」両駅から徒歩4分
※電話は準備中。お問合せは基本DMにて。
IG @ariku2014
HP ariku.net

Photo & Video by Taro Oota(写真と映像 太田太朗)
Text by Yoshiki Tatezaki(文 舘﨑芳貴)

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