一期一食
#38 7年越しの献杯。
今年から湘南にも拠点を構えた。もともと30歳で葉山にスタジオを作ることが、20代の無謀な目標だったのだけど、目標がスライドして、今の拠点を30歳で小さいながらに構えた。東日本大震災の2日後に引っ越しという波乱の幕開けだったけど、30歳ギリギリに一つ乗り越え、自分の当初の目的である海が見えるところにスタジオを構える目標は10年スライドしていた。今回もギリギリ叶った。この年齢までやれるとか全く想像してなかった。いろんなことたくさん起きてもうよくわかってないレベルだ。余計な事は考えず、ただただ走り続けた10年だった。いや、20年だ。
これからも先のことに囚われ過ぎずに、今を大切にやっていく。それでいいんじゃないかと最近思ってる。縁もあって、仲間達も茅ヶ崎に越したこともあり、本当にタイミングなのだなと感じている。
実は新しい拠点の庭にはとても立派な梅の木が1本ある。前のオーナーが植えたものだろう。あっという間にたくさんの大きな実をつけて少々驚いている。梅の木1本でこんなに実が出来ることを知らなかった。こんな単純なことも知らないんだな。他にも柚子や枇杷やレモンの木もある。こういうことの変化は自分の身にも少しずつ影響していくんだろうな。
急にたくさんの梅の実を手に入れた僕は、やっぱり何か作らずにはいられなかった。
まずは梅干しを作り、梅シロップも作った。梅酒はまだ早いから今回は見送った。
作る過程で1つ不具合が起きた。
大きなビンがないのだ。
いやいや買えよって話なのだけど、時間もなかったし、梅の実はどんどん黄色に熟していく。やばい。
そうだ、うちには梅酒の瓶があったんだった。7年前に亡くなった母の梅酒のビンだ。ことあるタイミングで少しずつ飲んでいたのだけど、最近は家の奥で眠っていた。実だけ取り出し梅酒だけ残していたビンもあった。
若干飲み尽くすことへの抵抗感も少しあったのかもしれない。
でもこのタイミングを逃すと、ずっと飲めない気がしたので今回飲み干した。ビンをもらった時から、結構な時間が経ち、知らないうちに梅酒も少し濁り始めていた。もともとデザイナーであった母の美意識に合わなくなっていた。これもタイミングなのだと思った。
この年齢になるからわかるけど、あの時代に女性で自立したデザイナーでやっていた事はすごいと思う。飲みながら、今聞いてみたい話も結構あるな。それもタイミング。
仕事でバタバタしない限りは、月命日には、お墓をキレイにしに行っている。知らないうちに日々の出来事の中で幼さも取れ、いい歳になったなと最近感じたばかりだった。
大きなライヴのリハも始まった。毎日水筒には緑茶を淹れて持っていくのだけど、暑くもなってきたら、梅シロップの炭酸割りを持って行ってみようか。
献杯。
- Bassist
濱田 織人 / Orito Hamada
ベーシスト、音楽プロデューサー、クリエイティブディレクター、NPO法人SOMA副代表理事、アトリエリスタ、茶道家。芸術修士(MFA)。スタジオミュージシャンとして演奏活動しながら、作編曲、作詞、プロデュースと幅広く活動。2017年クリエーティブブティック創業後、活動範囲を音楽以外にも拡大し、芸術教育などにも力を入れ始め、NPO運営にも携わる。日本唯一のベースの専門誌ベース・マガジンにて連載経験あり。プライベートでは、裏千家茶道家として初音庵主宰。密かに楽しんでいたサウナの魅力をゆるやかに発信中。サウナ・スパプロフェッショナル。 https://www.instagram.com/oritosroom/
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