100年後のヒストリカルビールへ。

木内酒造「常陸野ネストビール」が見据えるクラフトビール像とは?


PromotionPromotion  / Jul 9, 2026

アメリカに端を発したクラフトビールの熱狂。そのムーブメントを支えたビアスタイルのひとつとしてよく知られているのが、鮮烈なホップの苦味や香りが特徴的なIPAだろう。
アメリカのトレンドは、日本のクラフトビールの味わいにも大きな影響を与えてきた。

だが、その流れと距離を取りながら、独自の道を歩んできたビールがある。今や世界約40ヶ国で愛飲されている「常陸野ネストビール」だ。造っているのは、茨城県・那珂市で200年以上続く日本酒蔵「木内酒造」である。

「木内酒造」がクラフトビール造りをスタートしたのは、日本列島が地ビールブームに湧いた1996年。実は、当時目指したのはアメリカンタイプだったと代表の木内敏之さんは打ち明ける。

「やはり、アメリカのクラフトビールの盛り上がりを横目で見ていたので、まずはその方向だろうと。一番最初に造ったのはアンバーエールでした」

木内酒造株式会社代表取締役社長・木内敏之さん。1823年、木内儀兵衛が日本酒造りを開始。1996年よりビール造りに参入。2016年にはウイスキーにも進出。循環の一環として飲食店も多数手がける。

97年には、アンバーエールが国際的な審査会「インターナショナルビアコンペティション」ダークエール部門で金賞受賞。98年にはホワイトエールが同コンペのフルーツビール部門で金賞受賞と、快進撃が続いた。

 本場での高評価に喜び、いよいよアメリカへの輸出を意識する一方で、日本でビールを造る「必然性」と向き合わざるをえなくなった。「アメリカでアメリカンタイプのビールを売っても仕方ないですからね」

もともと、アメリカのクラフトビールの源流は、立役者であるチャーリー・パパジアンらがヨーロッパ各地に根づく歴史的なビールを学び、自分たちの手で再現を試みる動きにある。クラフトビールの本質をたどろうとした木内さんは、おのずとドイツ・ミュンヘン最古の醸造所「アウグスティナー」へ向かった。そこには、その土地の原料だからできる新鮮なモルトの使用や、モルト作りの工夫など、長い年月と風土によって育まれたオンリーワンのビールが存在していた。

「しかも、何よりおいしい。単一の麦芽で造るビールのうまさに思わず唸りました」

ヒストリカルビールのおいしさの理由は、土地に根づいた「必然性」にあり。現地でアウグスティナーを飲み干すと、物づくりのピントがカチリと合った。「木内酒造は日本のヒストリカルビールになる」

しかも、その土壌は盛っていた。「我々の蔵があるこの地域は、かつて日本最大の麦の産地だったんです。2007年には地元の生産者の方たちと金子ゴールデンを復活させました。ホワイトエールに使用する小麦も手に入りますし、もう必然ですよね」

地域を見渡せば副原料も豊富だ。
たとえば、2004年から造っている「レッドライスエール」は、古代米の系譜を引く「朝紫」を使ったビール。定番「だいだいエール」は茨城県産の「福来みかん」、そして、「セゾンドウジャポン」には、祖業である日本酒造りに久かせない米麹を加えるといったように、地域の恵みや蔵の歴史がビールに溶け込んでいる。

さらに、注目すべきは、ビール造りの肝ともいえるモルトだ。標榜するアウグスティナーは、敷地に製麦所を持つ。「地域の麦と地域の材料で造るのが本来のクラフトビールの姿」と掲げる木内さんは、2023年、念願の製麦工場を設立した。

「アウグスティナーのモルトを実際に見たことはありませんが、モルトの溶解率はそれほど高くないと思うんです。だからおいしい。でも、予測してみたところでアウグスティナーのコピーを造るつもりもないし、他の追随を許さないのがヒストリカルビールがヒストリカルである所以。大切なのは造りたいビールの品質に合わせて自分たちでモルト造るということなんです。通常、ビールのモルトは溶解率が高い方が効率がいいと言われていますが、我々はおいしさのためにあえて低くつくっています。そのために、モルトを高温で乾燥させてカラメル化しています。カラメルは簡単に水には溶けないんですね。そうすると、アルコールを効率よく生み出す割合が下がります。でもフレーバーが出るんですよ。それがおいしさにつながるんです」

奇しくも、地元のビール麦「金子ゴールデン」はタンパク質が多く、溶けづらい麦だった。

「日本の気候や風土にぴったり合ってるんですよね。地元のものを使うことで、味わいの設計にも必然性が生まれてくる」

ビール造りの川上から川下まで、すべての工程を自社で。
だから、ビール造りで発生した麦芽粕は、地元の銘柄牛「常陸牛」の飼料に。さらにレストランを運営し、循環の輪が無理なく地域に開いている。国内外のファンが常陸野ネストを選ぶ理由は、ビールの品質のみならず、ビール造りの本質を追求する姿勢への信頼もあるのだろう。 

「日本のヒストリカルビールになるにはあと100年くらいかかりそう」と木内さんは笑うが、当然ながらヒストリカルビールは、最初から歴史を背負って生まれるわけではない。土地にある素材を使い、なぜここで造るのかを自問自答し、その味が多くの人から人へ世代を超えて飲み継がれていくことで、いつしか歴史になってゆく。

アメリカンスタイルへの応答から始まった木内酒造のビール造りは、ヨーロッパの歴史あるビール文化を北極星として見据えながら、「日本でしか造れないビール」へ向かう旅の途中だ。 

木内酒造額田醸造所
茨城県那珂市額田南郷字高岡2182
Tel 029-295-5151

飲酒は20歳から。飲酒は適量を。飲酒運転は法律で禁じられています。妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

本記事はRiCE47号「特集 ビールは自由だ。」の掲載記事を再編集しています。

写真 清水将之(Photo by Masayuki Shimizu IG  @_shimizu_masayuki
(製麦写真のみ木内酒造株式会社提供)
文 浅井直子(Text by Naoko Asai IG @asai_naoko

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