Laraちゃんと新緑の「一番茶」体験
前編:美しい茶畑で感じる、一番茶が特別なわけ
桜がひとしきり見頃を終え、日々にすっかり春を感じる季節になると「一番茶」という言葉をよく耳にするようになる。「春」という概念と「始まり」や「一番」という言葉はなんとなく結びつきやすいが、あらためて一番茶とは何かと聞かれるとはっきりとはわからない人も多いのではないだろうか。
一番茶とは、一年のうち最初に摘み採られる茶葉のことだ。一番茶を摘んだ後にまた葉っぱが伸びてくるので、それが二番茶、三番茶として秋まで収穫が繰り返される。一番茶は冬を越え長い時間をかけて生育されるため、枝葉全体に養分がみなぎりながら、葉は柔らかになる。縁起物や長寿の源などと重宝される所以だ。味わいは、甘味・旨味が強く苦味や渋みは弱くなる。香り高さは格別だ。
今回、この力強い一番茶の姿と新緑に映える茶畑を実際に訪れたのは世界を飛び回る14歳のイラストレーターLaraちゃん。なんでも、Laraちゃんのご家庭ではよくお茶を飲むそうなのだが、Laraちゃん自身は苦味の強い緑茶はあまり得意ではないという。そんなLaraちゃんが好んで飲むというのが伊藤園の「お〜いお茶 新緑」という国産一番茶100%の緑茶。Laraちゃんが「苦くなくて美味しい」と言う通り、苦味・渋みが強くなく、すっきりとした飲み口ながらも、クセのない甘みを楽しめる味わいで女性を中心に人気となっている緑茶だ。他の緑茶とは違う味わいになるのはなぜだろう。そんな興味を抱いたLaraちゃんとともに、静岡県富士市の鈴木幸三郎さんの茶畑を訪ねた。
茶畑の面積、生茶葉の収穫量、荒茶の生産量、いずれも全国一位。静岡県は名実ともに日本一のお茶どころだ。今回訪れた鈴木幸三郎さんの茶畑は、富士山のふもとに位置する富士市の中で最も北に位置する。その分平均気温も低いため、摘採の時期も他の地域(九州、西日本はもちろん、静岡県内も)と比べてやや遅い。「夏も近づく八十八夜」という『茶摘み』の歌をご存知の方は多いと思うが、この八十八夜というのは2月4日立春から数えて88日目のことで、現在では5月2日(閏年は5月1日)ということになる。訪問したのは5月18日だったが、高冷地という地理的条件のおかげもあり今回一番茶を見ることができたわけだ。
「5月25日26日で摘もうかと話しています。あと1週間でもう少し高く伸びてくるんです。」
質問のひとつひとつに丁寧に答えてくれる鈴木幸三郎さん。代々この茶畑を守ってきた鈴木さんは、今は約30年にわたって伊藤園に茶葉を卸している。長年お茶づくりをしている鈴木さんも毎年一番茶の摘採の時期になると、いよいよだ、と感じるそうだ。それだけ一番茶というものは茶農家にとっても特別だということだ。
一番茶が育つまでにかかる時間は二番茶や三番茶などよりずっと長い。毎年10月頃にその年の摘採が終わり、そこから秋冬春の約8ヶ月をかけて一番茶の新芽と葉は育つ。そのため一番茶は養分をたっぷり貯め込んでいて、お茶の製品としても特別とされる。
▲ 先の方は柔らかく緑色だが、枝をよく見ると途中からは硬い灰色っぽい木の色に。緑の部分が一番茶として新しく育った部分だ
「一番茶は柔らかくなるね。それは気候(のおかげ)ですね」と鈴木さん。一番茶から50日後の7月中旬、つまり夏場に摘採される二番茶と比べ、一番茶は浴びる陽の光が弱いため柔らかな葉をつけるのだそうだ。鈴木さんの茶畑でも、二番茶の後10月頃にその年最後となる秋冬番茶が摘み取られると、整えられた土壌から養分を蓄えながら一番茶は春の芽吹きをじっと待つのだ。
お茶の木は背が低いこともあってか、毎年植えては収穫するとなんとなく思っている方もいるかもしれないが、木として30〜40年生きる。毎年伸びてくる先の部分を摘採しているので、植替えということはないのだが、こういったことも実際にお茶の木と葉を見てみるとよく理解することができる。
一番茶を摘んでもらったLaraちゃんも早速香りをかいで食べてみる。柔らかな葉には苦味は感じず、若葉の爽やかな香りが立ち上がり長く残る。
「他にはどうやって食べられるの?」と興味津々のLaraちゃん。食べるときは天ぷらにすることが多いそうだ。たくさんの養分が詰まった茶葉を摘んだそばから食べるという貴重な体験をすることができた。
鈴木さんの農園は高冷地ということもあり害虫が発生せず、一番茶は農薬を使わずに育てられるため、こうして生で食べても安心だ。
「季節的に寒いからね、こっちの方は特に。だから虫もつかないし、薬も使わない。(霜が降りて新芽が凍ることを防ぐための)防霜ファンも付けてやっただよ。けどかえって寒い空気を降ろしてしまって効果がないから取っちゃった」
たしかに、鈴木さんの茶畑には人工物がほとんどなく、高さの揃った茶葉の列が並んでいてとても美しい。一面に広がる一番茶の新緑が風にそよぎ、ウグイスなど鳥たちの鳴き声が響く茶畑は、何度も深呼吸をして気持ちをすっきりさせたくなる、そんな場所だった。
▲ 柔らかな茶葉を撫でながら、茶葉の列と列の間の細いあぜ道を歩くLaraちゃん
一年に一度この時期にしか見ることのできない一番茶。桜の開花よりも静かではあるけれど、日本の初夏の風物詩でありすがすがしい美しさが感じられる。
初めて見る茶畑、それも一番茶が茂った綺麗な茶畑がすっかり気に入った様子のLaraちゃん。細いあぜ道を歩きながら間近で茶葉を観察した。続いて、フランス人のお友だちのソフィーさんと一緒に鈴木さんにお茶の摘み方を習うことに。楽しい茶摘み体験やお茶の淹れ方講座は、後編記事につづく。
Photo: Kenta Aminaka
Text: Yoshiki Tatezaki