連載「あの人、そのレシピ」
三人目、キムくんのカオソーイ
あの人が作る、記憶に残るあの料理。
親や友人、身近な人々の料理にお金を払ったりすることはないけれど、
お店では食べられない味と空気が確かにそこにある。
人とレシピ、そしてその背景を僕の目線で記録することにした。
(取材・写真・文=濱田晋)
キムくんのカオソーイ
キムくんは映画監督。
最近近くに越してきた。とぼとぼ歩いて20分、大規模修繕真っ只中の5階を目指す。今日も真面目な話が一割で、冗談が大半を占めるだろう。
春の気配に、カオソーイ一丁。
濱「キムくんの料理してる姿なんてね、誰も見たことないから嬉しいよ」
金「これがきっかけで徹子の部屋とか出れないかな。あー、ぶんぶんチョッパー使えばよかったーカッコつけたー」
濱「越してきてどのくらいでしたっけ?」
金「1ヶ月ちょいくらいすね。10件ほど見て決まりかけたとこあったけど、俺の国籍でダメになった」
濱「まだそんなことあんの?」
金「なんかオーナーがそういう人で」
濱「キムくん国籍今どこになってんの?」
金「韓国すね。高校一年の時に韓国になった」
濱「料理昔からやってた?」
金「んーどうだろ。毎日作るみたいなのは一人暮らししないとやんないじゃないですか」
濱「で、今日は何故カオソーイなんでしょう」
金「元々タイ料理好きだったんだけどカオソーイ知らなくて。一回食べたら美味しかったんすよね。そもそもカレーが好きだから。それ以来タイ料理屋行ったらカオソーイばっか食べるようになって」
濱「で、家でも食べたくなって作ってみたと」
金「そう。レシピ見ながらだけどあんまレシピ通り作りたくなくて。何か手を加えてしまいたくなる。それで失敗したりするんだけど」
濱「今日は確立したレシピで…」
金「いや、発展途上。だから失敗するかも」
濱「これ貼ってんのレシピか。まだハングルで書く時ある?」
金「漢字画数多い時とかはもうそっちの方が楽だから」
濱「今日キムくんも昼飯カオソーイ一緒に食べる?」
金「食べる。ハマソーイすね」
Cooking by Yunsoo Kim
Photo, Interview & Text by Shin Hamada
Edit by Yoshiki Tatezaki with Assistance by Airi Kato
- Photographer
濱田 晋 / Shin Hamada
1987年 兵庫県出身
主にポートレイト、ドキュメンタリー、取材の分野で撮影を行う。2022年より思考実践『HAMADA ARCHITECTS™️』を始動。
shinhamada.com
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