『ブッダボウルの本』出版インタビュー 後編

前田まり子 (マリデリ)の出来るまで


RiCE.pressRiCE.press  / Oct 1, 2018

みなさんは“ブッダボウル”という料理をご存知だろうか。

ブッダボウルとは、穀物や野菜、ナッツなどが一皿に盛り付けられ、最後にはそれら全てをぐしゃぐしゃにして食べる「菜食丼」のこと。アメリカ西海岸が発祥の料理で、近頃ではその見た目の華やかさから日本でもSNSを中心に注目されている。

今年の7月『ブッダボウルの本』を出版されたフード・アーティストの前田まり子さん。今回は、前田さん自身がオーナーを務めている[マリデリ]にて実際にブッダボウルをいただきながらインタビュー。後編では、前田さんがブッダボウルを作るまでの経緯を伺った。

魅力を感じてアパレル業界から料理の世界へ

————ブッダボウルは、前田さんの経てきた人生が、この一皿に表現されてるなって気がしますよね。料理の世界に入る前は何をやられていたんですか。

前田 もともとアパレルで販売をやっていたんですけど、無理やりお客さんに商品を勧めたりすることが魅力的に思えなくなってきて。一番最初に料理を始めたのは、下北沢の[木曜館]っていうお店です。今はもうないんですけど、そこはアンティークのものからオーナーが仕入れてきたものを売ってて、角に喫茶コーナーもありました。お店の従業員がそれぞれの得意分野を担当していて。みんなが好きなことをやってるお店だったんです。そこで私はアパレル時代にお客さんとして行ってたんですけど。お客さんも好きに座って、コーヒー飲んでお金払って帰るじゃないですか。「これはすごくいい世界だな」って思って、アパレル業界をやめました。そこが入り口ですね。そこで初めてケーキ焼いたりとかクッキー焼いたりすることを教わりました。でも本当に時給が安かったので、そこからありとあらゆる飲食店バイトの掛け持ちをして。

無我夢中に過ごした葉山でのパン屋時代

————その後葉山で[カノムパン]というパン屋をやられていますが。なぜパン屋を開こうと思ったんですか?

前田 パンは突然だったんですよね。パン屋に勤めたことはアルバイトも含めて一回もないんですよ。もともと天然酵母のパンは好きだったんですけど、作り方とか難しそうなイメージがあって。けれど、たまたま本屋で手に取った天然酵母のパンの本がすごく面白くて。いろんなところに住んでる人たちが、自分の生活に沿ったパン作りをしてますっていう本だったんですよ。前日に残ったお米や、ジャガイモを剥いた皮から酵母を作ってます、とか。みんな生活の中の余りものを酵母にしていて。「なにこれ面白そう」って思ったので始めたんですよね。そこからバーってハマりました。

————[カノムパン]はどれくらいやられてたんですか?

前田 葉山きてから13年です。やり切りました(笑)。毎日が無我夢中だったので。あっという間に過ぎたんですよね。パンだけじゃなくて、お料理とかスイーツもやっていて、自分の持ってるもの全て出し切っていたので。まぁ本当に燃え尽きたってかんじですよね。

————それだと、休みも全然なかったでしょうね。

前田 本当に、葉山の生活も満喫できなかったですよね。早朝に起きてお店開けて、夕方六時に閉めてそこから次の日の買い出し。で、また次の日も早いから寝なきゃっていう生活だったので。それで、お店の10周年記念パーティーをやったら急に力がすごい抜けちゃって。そこからは次の新しいことをやってみたいって方向に意識が向かって行きました。けれど、お店が完全に出来上がってたし、お客さんも完全についてて。それも地元だけじゃなくて全国についてるって感じだったので、急に違うことをやろうと思ってもなかなか難しかったんです。結局それで13年目にして卒業するって道を選んで、東京に帰ってきました。

▲ 店内窓際の席 落ち着いて長居するお客さんも多いそうだ

————東京に帰ってからは何をしていたんですか?

前田 しばらくは抜け殻みたいになってましたね(笑)。特に自分から何かを発信するとか、作り出すってことを一切したくなかったんです。とにかく疲れちゃってたので。それで、丸の内ハウスの[MUS MUS]で一年くらいバイトをしてました。でも、自分の意思でないものを作るのを一年続けているうちに、「私何やってるのかな?」って我に返ってハッとしたんです。それまでは精神的に疲れ切ってたけれど、やっと余裕がでてきたんだと思います。私は、半年に一回タイへ行ってた時期もあって、それからヴィーガンのタイ料理とかも網羅したんです。でも、このまま作らなかったら自分の作ってた味忘れちゃうんじゃないかと思ったんです。そうしたら、たまたまうちの旦那さんの後輩が[IGAO]っていうところでお店をやってて。昼間空いててもったいないからお店やらないですか?っていう話が来たんです。その時に、うちの旦那さんが「まりちゃんやれば?」って言ってくれたのをきっかけにして[マリデリ]を開くことになりました。

ヴィーガンプレートの経験を生かしたブッダボウル

▲ ブッダボウルの他にもヴィーガンマフィンやマサラソーダなど珍しいメニューもある

————ブッダボウルを売り出したのはいつ頃ですか?

前田 [IGAO]で売り出して3ヶ月目くらい。最初は普通のお弁当屋さんから始めたんですけど、なかなかうまくいかなくて。なので、途中から自分が得意でずっとやってきたことをやろうと思ってヴィーガンプレートに変えました。そうしたらお客さんが増えて手応えがあったので、イートインとテイクアウトと両方やったりしていました。それでその時に、たまたま友達のfacebookでブッダボウルの存在を知って、すごく興味をもって。ヴィーガンプレートを少し変えてそこに落とし込めばいいだけだったし、またさらに新しいことも考えるのは楽しかったし。それに、ブッダボウルってネーミングの惹きが強いじゃないですか。「絶対これいける」と確信したので、早く始めて、私のものにしなきゃと思いました。ブッダボウルとヴィーガンマフィンの店っていうのは自分で決めて、もうこれに向かっていこうっていう志の表れとして、友達にすぐ看板を作ってもらって。

————それで始められたわけですね。

前田 そうしたら(「ブッダボウルの本」編集者の)北尾(修一)さんがきてくれて。もともと向こうのお店(IGAO)でやっていた時に、北尾さんの奥さんがよくきてくださってたんですよ。ここに移った時は北尾さんを連れてきてくださいました。一年ちょい前くらいですね。そこから毎週来てくださって(笑)。

————常連さんだったんですね(笑)。それで、本を作る話になったんですか?

前田 そうですね。

————自分の本を出すイメージはあったんですか?

前田 「やった〜来た!」って思いましたね。[カノムパン]の時から本を出したいって気持ちがずーっとあったので。けれどなかなか話がなかったんですよ。去年の8月くらいに、今年も本出せないかぁ……ってぼんやり思ってたんですけど、ちょうど北尾さんが見えて。本作りのお誘いをいただいたので、即答しました。

————ブッダボウルの中に前田さんが今までやって来たことが、全部入っていて。なおかつそれが今回の本に全部落とし込まれてて。タイミングも含めてよかったのかもしれないですね。

前田 確かに今回本を作って、やっぱりこのタイミングだったんだなっていうのはすごく思いましたね。ブッダボウルは、今までのもの全部を落とし込んで、なおかつ日々思いつくことをプラスにしていったりして。そこに無理が一つもないので。葉山で働いていた頃は自分自身と戦ったりとか、模索したりしてる時期だったので、多分できなかったと思います。でも、今回本が出ていろんな媒体に取材してもらったことによって、[カノムパン]の時のお客さんが来てくれるようになりました。ちょうど何日か前にお客さんから予約のメールが入って、何回かやりとりをしているうちに「実は私[カノムパン]の時に何回も食べにいってたんです」っていう風に書いてあったんです。私が葉山から去ってから6年も経っているのに、それでも来てくれて。本まで購入して帰って行かれました。

————前田さんと再会して、今の料理であるブッダボウルを食べれて。本当に幸せなつながりですよね。

前田 だから皆さん本当にありがたいですよね。

[マリデリ]のこれから

▲ 夜はクラブとして経営されてる[エンジョイハウス] 店内を見渡してみるのも楽しい

————ここまでお話をお伺いして、前田さんには色々な人生の節目があったと思うんですけど、その時々の変わり目に迷いとか不安などはなかったんですか?

前田 そうですねぇ。いいのか悪いのかはわからないですけどずっとおんなじことができなくて。でも、アパレルから料理の世界に行くときも、それなりに勇気はいったと思います。保証も貯金もあるわけではなかったけれど、そこからは時給を繋いでいく生活に変わっていったので。それでも、やっぱり魅力的だったんですよね。

————今後[マリデリ]はペースを変えたりだとか違うところでとかは考えてないんですか?

前田 今の所はないですね。やっと一年なんですけど。人のお店で、なおかつすごいインパクトが強いじゃないですか(笑)。だからなかなか自分の場所だって思うのに、時間がかかったんですけど、最近はやっと自分が馴染んで来ました。それにここのオーナーは本当にいい人なので、ここから恩返ししていきたいなって思ってます。

 


『ブッダボウルの本』
定価:1480円+税
購入はこちらから

2018.11.18 「ブッタボウルの本」刊行記念 食事会 トークイベント開催!
ブッダボウルを食べながらの贅沢なトークショー。
[マリデリ]のブッダボウルを関西で食べられる初の機会となっているためお見逃しなく。
イベントの詳しい情報は下記のURLよりご確認ください。
http://www.seikosha-books.com/event/3930


前田まり子 (マエダ マリコ)
フード・アーティスト。 イタリア、タイ、インド、カフェ、BARなど様々な飲食店で料理の腕を磨く。2000年夏、葉山に実店舗カノムパンをオープン、パン製造販売/料理の提供/料理教室主催/ラジオ・TV出演など。ヴィーガンフードを得意とする。現在はMarideli helps u lose ur mind名義でランチ、ケータリング、ビーガンベイキング、メニュー開発など、Natural & healthyをテーマに活動中。著書に「ブッダボウルの本」がある。

マリデリ
住所 : 東京都渋谷区恵比寿西2-9-9 代官山テクノビル 2F
営業時間 : 12:00〜15:30
定休日 : 月曜、土曜、日曜
http://marideli.hatenablog.com
@maemaricoconuts

CREDIT
写真 : きくちよしみ
インタビュー : 稲田 浩
テキスト : ささぶちりり子
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