レポート:フードカルチャーパーティー『CONCENT』

シーンを牽引するシェフたちが集結!


RiCE.pressRiCE.press  / Apr 3, 2018

食文化の英訳とはまた別のニュアンスをもった言葉、フードカルチャー。スケートカルチャーや、音楽、ファッションなどの影響を受けて育った若いシェフたちによるまったく新しいレストランが次々オープンしている、いまの東京の食シーンのキーワードとなる言葉だ。
そんな言葉を体感させるイベントが、東京ファッションウィーク開催中の3月20日、表参道ヒルズのフラテリパラディソで開かれた。ラウンジではWONK長塚健斗、jan and Naomi、Maika Loubté、Kotsu (CYK) のパーティーが開かれ、レストランエリアでは、原宿[kiki harajuku]の野田雄紀、代々木上原[Gris]の鳥羽周作、国領[Don Bravo]の平雅一、今年独立する鮨職人の遠藤記史が腕を振るった。

野田は普段はイベントなどには参加しない。自分の手を超える活動はやりたくないタイプだったというが、今回はフードカルチャーというコンセプトに惹かれ、レストランに興味を持つ人を増やす力になれたらと参加を決めた。音楽もファッションも好きだという人がなぜかレストランにはあまり行かない、そんな日本の状況を変えたいと野田は考えている。「オーストラリアでは服屋さんに行っても「今日のゴハンはどこで食べるの?」「あのレストランが美味しいよ」「あそこのビオワインは試してほしい」という話になるんです。アート、ファッション、音楽みたいな感覚でフードも楽しんでもらえたらなと思います」食と他のカルチャーがもっと密接になることを願っていたという。そのために裏原宿に開店し価格も抑えた。「リーズナブルにやっているのは、既存のレストラン通以外の人にもフードカルチャーが広がってほしい、レストランを楽しむきっかけにしてほしいと思っているからなんです。近くの会社員や学生、海外からのフーディーなど様々な人が美味しい物を求めて集う場所を作りたいと思っています。気取らず楽しんでもらえたら嬉しいですね」

▲ 野田雄紀 (kiki harajuku)

鳥羽は小学校教師から転職して32歳で料理を始めた。レストランの業務が終わった深夜にも、価格帯や立地もさまざまなレストランのシェフたちと勉強会を続けている。6月には勤めているGrisの権利を買い取り、ついにオーナーシェフとなる。「料理人が業界の中で何か言ってもあまり変わって行かなくて。食べログで4.5獲っても、半年先の予約が取れない店になっても、あんまり業界は変わらない。シェフが休みを取って研究もできるように業界を変えて行きたい。だからストリート感がある奴らと一緒に世界で戦っていきたいんです。シュプリーム着たスケーターに「あのレストランのあの料理むっちゃいいよね!」とか言ってほしいっすね」

▲ 鳥羽周作 (Gris)

国領という郊外の住宅地でレストランを経営している平は、今回のイベントでは普段会えないような人に料理を食べてもらえるのが嬉しいという。これまでは好きな共通の生産者の作物を介してのコラボなどはあったが、イベントに参加することはあまりなかった。しかしイタリアンというジャンルでひとくくりにされ、同じ料理を作って行くことに危機感を抱いていた。「ずっと同じことだけやってたら時代遅れになっちゃう。イタリアンやフレンチの大御所の料理を見ていると、盛り付けなんかはいまとずれちゃっていると感じます。一方和食の職人さんはベテランになればなるほど凄みが増す。魚を丁寧に扱ったり根本の自信が違うような気がします」考えながら作ることで出来上がる料理も変わってくるのではという。

▲ 平雅一 (Don Bravo)

実家が寿司店だった遠藤だが、飲食業界で仕事をする大変さを知っていただけに子どものころは親の仕事を継ごうと考えたことはなかった。サッカー選手を目指し、高校卒業後は英国に留学。しかし、海外に行って改めて日本食の良さがわかったという。日本への憧れが強くなり、25歳で帰国。修行を重ねて寿司職人になった。寿司は最もトレンドから遠いところにあるハイカルチャー、サブカルチャー的なニュアンスを含むフードカルチャーという言葉はまだ腑に落ちていない。「率直に言って歩み寄れる部分は少ないと思います。でもだからこそフードカルチャーってなんなのか、チャレンジしたい気持ちがあります」

▲ 遠藤記史

ファッショナブルで、腕もよく、モチベーションも高い——–そんなシェフの料理に合わせ、アルコールとノンアルコール両方のペアリングを提供したのは、[フラテリパラディソ]のソン・ユガン、[LA BONNE TABLE]の戸澤祐耶、[JOE’SMAN2号]の高崎丈。食後のコーヒーは[ONIBUS COFFEE]坂尾篤史と、コース全体が最後まで考えぬかれた。

ソンは会場となった[フラテリパラディソ]のソムリエ。イベントの企画段階から参加を呼びかけられ、会場を探していると聞いてそれなら自分が働くレストランでと提案した。実家がカジュアルなレストランだったというソンは、子どものころから店に出て接客を楽しんできた。バイト先もレストランやバーばかりで、自然に飲食業界に入ったという。転機が訪れたのは地元仙台のイタリアンレストランで働いていたとき。「ソムリエとの勉強会があって、生ハムの味がワインで変わるのに驚いたんです。ワインがあれば料理の美味しさが10にも20にもなる。そういう世界を知っている人が世の中にはいるんだって」ワインの勉強のために上京、サービスマンとして働きながらソムリエの資格を取得した。ワインへの情熱は衰えない。

▲ ソン・ユガン (フラテリパラディソ)

戸澤は「音楽やファッションがフードカルチャーを盛り上げてレストランが身近になるのは嬉しいし、今日のシェフは本当にすごいんです。鳥羽さんがキノコの話をしたり、平さんが蛤の話をしだすと二人とも話が止まらなくて」と笑う。

▲ 戸澤祐耶 (LA BONNE TABLE)

高崎も「熱量があるところに来た方がいいと思って今日は朝10時から来て準備をしていたんです (開場は19時) 。そうしたら鳥羽さんが2時間話していた。でも聞いていて何がどう大事なのかよくわかりました」高崎は福島県双葉郡で居酒屋を開いていたが、原発事故により閉店せざるを得ず上京、現在は三軒茶屋で同名の店名に2号とつけて営業している。茶禅花オーナーの林亮治さんにインスパイアされ、お茶のように酒を燗して寝かせ時間をかけて美味しくするクラフト燗を研究中だ。

▲ 高崎丈 (JOE’SMAN2号)

坂尾はこれまでレストランで食事をするたび、コースの最後のコーヒーを残念に思っていた。なぜ苦味を強くして料理の余韻を切ってしまうのか。中米やアフリカの農園まで行って豆を買い付け、収穫されたばかりのフレッシュな豆を味わえるコーヒーを提供している身だからこそ「料理の余韻を家まで持って帰れる」コーヒーを提供したかった。「素材を探して生産地に行くのはシェフと同じ感覚ですし、お客さんにもストーリーを感じてもらいたいと思います。日本人には自然のものを美味しく食べたいという感性があって、和食の出汁の味など旨味やミネラル感も感じ取りやすい。だから浅煎りのコーヒーの味は美味しく感じると思います」

▲ 坂尾篤史 (ONIBUS COFFEE)

食を中心に音楽とドリンクをとんでもないレベルでかっこよく並列させるのは、誰でも思いつきそうでいて誰も実践できなかったこと。これだけのメンバーを揃えたイベントをファッションの中心地、表参道でやりきったのは画期的な事件だ。
CONCENT第2回は今秋、また東京ファッションウィークに合わせて開催される予定だ。次回はどれだけの人がこの幸運に巡り会えるだろうか。

<当日のメニューはこちら>

水 鰹節
▲ 乾杯は金色に澄んだ鰹出汁で。出汁を引いたのは寿司職人の遠藤。発酵熟成効果を狙い、カビづけ行程中にモーツァルトを流して作る “クラシック節” を使用。音楽と食のコラボというテーマにぴったりだと思ったという

苺 桜 トマト水
▲ 苺と桜の花を凍結濾過したトマト果汁のジュレで固めたkikiのスペシャリテ。「コースには魚や肉で旨味をつける料理が多いですが、多用されると重すぎる。普段のコースでも一品は肉や魚を使っていないものを出しています」
ペアリング
▲ アルコール:福島県人気酒造「Rice Magicスパークリングレッド」赤米を使ったスパークリング日本酒。基本的にワインは [フラテリパラディソ] ソムリエのソン・ユガンが、日本酒は[JOE’SMAN2号]オーナーの高崎丈がセレクトしたが、シェフが決定した10品の料理に対してドリンク担当の3名がそれぞれ飲み物を用意し、試飲を重ねて話し合い、最終的にサーブするものを決定した
▲ ノンアルコール:りんご グレープフルーツ レモン 草野さんの蜂蜜 炭酸
ノンアルコールの飲み物は以下すべて[LA BONNE TABLE]のソムリエ戸澤祐耶がブレンド。これは上記の果汁を低音加熱したものにアカシア蜂蜜で甘みをつけ、炭酸を足したシードルをイメージした

フォアグラ バナナ ほうじ茶
▲ 最中の皮の中に、フォアグラ、バナナ、香りづけにごく少量の蒸したほうじ茶がサンド。フォアグラの塩気とバナナがよく合う
ペアリング
▲ アルコール:福島県仁井田本家 「自然酒 オーク樽熟成」クラフト燗
非売品の自然酒に燗をつけて急冷し冷蔵熟成させたもの
▲ ノンアルコール:甘酒 岩塩 温めて
凍結濾過しておりがなく透明になった甘酒に岩塩で風味をつけたもの。玉露ほどの温度に温めて

鰹 ゴルゴンゾーラ メープルシロップ
▲ [Don Bravo]平のスペシャリテ。づけにしてたたきにした鰹にゴルゴンゾーラとメープルシロップの濃厚な風味。ナッツと新玉ねぎでさらに新鮮な味わいと口当たりに。もともとは桃で作っていた料理だったが、シェフたちに試食してもらってメープルシロップに変えた。「ずっとこの通りに作るとは限らないけれど、定番だった料理が食べてもらって変わるのも面白かったです」
ペアリング
▲ アルコール:ジョージアGotsa 15 Rose Tavkverii
フラテリのワインはすべてナチュールだが、これはジョージア (グルジア) で初めてヨーロッパのビオディナミ認証を得たワイナリーのロゼ。ソンが今回とくに紹介したかったもの
▲ ノンアルコール:文旦 柚子 草野さんの蜂蜜
文旦と柚子は種を割って4日間コントレックスに浸けた。ゴルゴンゾーラに負けない華やかな香りの飲み物。硬水でキリッとした味になり、種を割ったことでペクチンのとろみも出た

蛤 水 小麦
▲ これも[Don Bravo]のスペシャリテ。一山いけすの蛤を酒蒸しにし、香り豊かなオリーブオイルとともに国産小麦で手打ちしたピッチを和えた
ペアリング
▲ アルコール:京都 澤屋まつもと 完熟Shuhari
もともと蔵元が最適の状態まで低温熟成した酒を、さらに抜栓して1週間置いて香りを立たせた
▲ ノンアルコール:大根 昆布
「これは絶対ご存知の味のはずです」と供された正体は凍結濾過した大根と利尻昆布を合わせたもの。強い味のシーフードとの口内調味で大根臭は消え、旨味だけが残る


▲ コラボイベントでしか味わえない握り寿司。[Gris] 鳥羽がフレンチの手法で低温でじっくり火入れしたものを遠藤が寿司に。辛味はわさびではなく辛子を使った
ペアリング
▲ アルコール:ブルゴーニュ Silvan Pataille 2015 Fleur de Pinot
Silvan Patailleは2001年創業の若いドメーヌだが評価が急上昇中。これもビオディナミのロゼ。ドリンク担当の3人とも自然に近い造りの酒やそういう酒造りを続ける生産者にこだわっている
▲ ノンアルコールペアリングはなし

ものすごい鯖 ビーツ 梅
▲ 熟成つけ汁に浸けられたノルウェー鯖が、ファッションウィークのテーマカラーの赤に。梅の香りのビーツの泡をまとって
ペアリング
▲ アルコール:カタルーニャ Partida Creus  Rose 2016 VN Vinello Tinto
カタルーニャ地方の伝統種の葡萄7種を原料に作られたオーガニックワイン。試飲の段階ではロゼのほか赤、白、オレンジすべて用意していたのに結果的にすべてロゼになり、ファッションウィークのコンセプトにあまりにハマったことにみんな驚いたという
▲ ノンアルコール:トマト リンゴ セロリ
凍結濾過した野菜汁と果汁。グラス1杯ぶんでセロリ1本、トマトはいくつ使っているかわからないという贅沢

ハーブ牛 たれ 仲さんのしいたけ
▲ ハーブ飼料を与えて免疫力を上げ薬剤の使用を抑えた赤身の牛肉をグリルし、りんご、セロリ、にんじんなどで作ったたれと、日本酒と醤油で煮た天然栽培の特大しいたけとともにいただく
ペアリング
▲ アルコール:木戸泉 2012 Afruge “Ma Cherie”
高温山廃一段仕込みの木戸泉afsをシェリー樽に貯蔵し5年熟成したもの。野菜やしいたけの甘さを補強する
▲ ノンアルコール:味醂 椎茸 白たまり 棒茶
加賀棒茶に愛知県小笠原の三河味醂の煮切り、しいたけの出汁、白たまりで風味をつけた旨味の爆弾のような飲み物。牛肉の脂を流すと同時に旨味は倍加

横山さんの鰻
▲ 蒲焼きだと寿司の食感と合わないと考え、煮て繊細さを出した鰻。「鰻にはこんな味もあるんだよとわかってほしい」
▲ ペアリングはそのまま木戸泉で

モンドール ハーブ
▲ 秋から春の間だけ作られる、中身がとろとろなチーズをジェラートに。ハーブを添えて爽やかさとサクサクした食感をプラス
ペアリング
▲ アルコール:富山 枡田酒造 満寿泉 貴醸酒 生酒
貴醸酒とは水でなく酒で仕込んだ日本酒。濃厚な甘口

CONCENT
日程: 3/20(火・祝前日)
会場: フラテリ パラディソ(http://fratelliparadiso.im-transit.co.jp
住所: 渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ 3F
参加費: ラウンジ FREE(ドリンク・軽食キャッシュオン)/レストラン 20,000円(SOLD OUT)
主催: GHI Company, Limited
http://www.ghi.jp/concent

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